台湾での店舗出店を成功させる第一歩は、「どの設計会社を選ぶか」にかかっています。
その判断材料となるのが「ポートフォリオ」──
しかし、表面のデザインだけを見て判断すると、思わぬ落とし穴にはまることも。
写真の美しさの裏には、設計思想、現場力、チーム体制、そして経営の安定性までが隠れています。
“写真ではなく、信頼で選ぶ”
これが、台湾での空間づくりを成功させる最大の秘訣です。
第1章:見た目のデザインより「設計思想」を読む
―台湾のポートフォリオには“思想”が隠れている―
台湾の設計会社や内装会社のポートフォリオを見ると、多くの日本人はまず「明るくておしゃれ」「抜け感がある」「素材感が豊か」といった印象を抱きます。
確かに台湾のデザイナーは、光の使い方や空間の“間”の取り方に独自の感性を持っています。
しかし、その印象だけで判断してしまうと、思わぬミスマッチが起こることがあります。
なぜなら、写真に映るデザインはあくまで「表現の結果」であって、その背後には必ず「設計思想」が存在するからです。
写真に映らない「設計意図」を読み解く視点
ポートフォリオの写真だけでは、その設計が「なぜこの形になったのか」を読み取ることはできません。
例えば、開放的な空間構成のレストランには、台湾特有の高温多湿という気候や、そのための通風を意識した設計思想が反映されている場合があります。
また、通路を広めに取っている店舗では、台湾の「人の流れ」や「グループ来店」の文化を考慮しているケースも多いです。
つまり、図面や写真を眺めるときには、「この設計はどんな生活習慣・商習慣を前提にしているのか?」という問いを常に持つことが重要です。
出店に関わる日本人の意思決定責任者に多いのが、「日本の感覚で見る」ことによる誤解です。
日本では“機能美”が重視されますが、台湾では“感性と印象”が優先されることが多い。
そうした価値観の違いを理解した上で、設計意図を想像しながらポートフォリオを読むことが求められます。
台湾の“映える”デザイン文化に潜む商業戦略
台湾の設計会社の多くは「SNS映え」を強く意識しています。
特に飲食店やカフェの案件では、店舗デザインそのものが集客装置になっているからです。
つまり、台湾のポートフォリオは“美的表現”であると同時に“マーケティング資料”でもあるということ。
日本企業から見ると「装飾的すぎる」「奇抜だ」と感じるデザインでも、実はそれが台湾の若年層に刺さるトレンドを的確に捉えているケースもあります。
したがって、デザインを評価するときは、「自社ブランドに合うかどうか」だけでなく、「この会社はどのターゲット層を理解しているか」を見ることが大切です。
写真の中に“誰のためのデザインか”という視点を持つと、その設計会社が商業デザインとしてどれだけ市場を理解しているかが見えてきます。
図面や模型がなくても伝わる「空間構成力」
台湾の設計会社の中には、ポートフォリオに詳細な図面や施工写真を載せず、完成写真だけを中心に構成しているところも多いです。
これは、デザイン重視の文化ゆえの特徴です。
一見すると情報が少なく見えますが、実はその限られた情報の中に設計者の“空間構成力”が現れています。
例えば、カメラのアングルが一方向からではなく、空間全体を見渡せるように撮られている場合、その会社は空間全体のバランスを意識して設計している可能性が高い。
逆に、部分的な装飾やディテールばかりを強調している場合は、空間全体の統一感に欠ける可能性もあります。
つまり、図面がなくても、写真の「構図」「距離感」「奥行き」から、空間のつくり方が見えてくるのです。
それは「設計力」そのものを測るヒントになります。
色使いと素材選びから見える設計者の哲学
ポートフォリオの色使いや素材の扱い方は、その設計者の“哲学”を最もよく表します。
例えば、台湾では自然光を多く取り入れた明るいトーンの内装が好まれますが、その中にも「色温度の調整」や「素材のテクスチャーの重ね方」に個性が出ます。
木目を活かしながらもガラスや金属をアクセントに使う設計者は、素材の調和を重視するタイプ。
一方で、強いコントラストを好むデザイナーは、視覚的インパクトを重視する傾向があります。
つまり、どんな色・素材を選んでいるかを見るだけで、その人が「感性派」なのか「構成派」なのか、「実用重視」なのか「表現重視」なのかがわかるのです。
さらに重要なのは、同じ素材をどのように“組み合わせて”いるか。
組み合わせのセンスは現場での施工知識と直結しており、仕上がり精度を左右します。
色と素材の“会話”を感じられるポートフォリオは、現場を理解している設計者の証拠です。
“誰のためのデザインか”を問い直すことの重要性
ポートフォリオを見る際、最も大切なのは「誰のためのデザインなのか」を見極めることです。
台湾の設計会社の中にはデザイン賞を多く受賞している会社もありますが、必ずしもそれが「商業空間の成功」と直結するわけではありません。
店舗設計では、クライアントのビジネスモデルや顧客導線を理解していないと、いくら美しくても売上につながらない空間になってしまいます。
つまり、写真の美しさよりも「機能としての成功」をどう実現しているかを読み解くことが、出店担当者に求められる視点なのです。
また、台湾の設計会社がどれだけ「クライアントの声」を反映しているかは、ポートフォリオ内の“コンセプト説明文”に現れます。
その文章が“自分たちのデザイン哲学”ばかりを語っている場合は、クライアント目線が弱い傾向があります。
一方、「オーナーの想いをどう形にしたか」というストーリーが書かれている場合は、顧客理解度が高く、長期的な信頼関係を築ける可能性が高い。
ポートフォリオとは、作品を見せるものではなく、「顧客との関係性」を示すものでもあるのです。
第2章:完成写真の裏にある「現場力」を見抜く
―美しい写真は“現場の努力”の証でもある―
台湾の設計会社や内装工事会社のポートフォリオを見ていると、まず目を奪われるのが「完成写真」です。
光の入り方、素材の艶、家具の配置──
どれも計算し尽くされたような美しさがあります。
しかし、その写真は本当に「現場で実現されたもの」でしょうか?
実は、台湾ではCG(コンピュータグラフィック)や補正加工を多用するケースも多く、写真の美しさだけで判断するのは危険です。
仕上げの精度を見抜く“影とライン”の観察法
完成写真を見るとき、まず注目してほしいのが「影」と「ライン」です。
日本の現場監督なら誰もが気にする「通り」「見切り」「巾木の納まり」などは、台湾の工事では意外と軽視されがちです。
そのため、写真の中にわずかな歪みや段差が見える場合、それは施工精度の低さを示している可能性があります。
特に照明によって壁面に落ちる影の“揺らぎ”や“ムラ”は、下地処理の精度を反映します。
きれいな壁ほど、影がまっすぐに走ります。
また、造作家具のラインが壁と平行であるかどうか、建具の隙間が均一であるかなども大切な観察ポイントです。
写真は嘘をつきません。
細部にこそ、その会社が「どれだけ現場を理解しているか」が映し出されています。
光の方向でわかる、空間設計と施工精度の一致度
台湾の設計会社の多くは、光を非常に上手に使います。
自然光と照明光を重ねて空間に奥行きを出すのが得意です。
しかし、その光の方向をよく見ると、設計段階の意図と施工結果の一致度がわかります。
例えば、ダウンライトの位置が家具や壁面の中心から微妙にずれている場合、それは「施工時の位置ずれ」か「設計段階での詰め不足」です。
また、照明の色温度が空間全体で統一されていない場合、現場管理の甘さが疑われます。
光の“方向”と“温度”が整っている写真は、設計と現場の呼吸が合っている証拠。
逆に、いくらデザインが美しくても、光の配置が不自然に見えるなら、それは「現場の理解不足」を意味します。
照明は空間の言語。そこに現場力のすべてが現れます。
写真の「整いすぎ」に注意:CG合成の可能性を探る
台湾の設計会社のポートフォリオでは、完成写真にCG(3Dレンダリング)を混在させるケースがよくあります。
一見リアルに見えるものの、実は施工前のプレゼン画像だったり、撮影後にPhotoshopで補正されたものであることも少なくありません。
たとえば、金属面の映り込みが不自然に均一だったり、ガラス面に写り込む風景がない場合は、CGの可能性が高いです。
また、照明器具が光っているのに、床や壁に影が落ちていない写真も、レンダリング画像によく見られます。
これらを“悪意のある偽装”と決めつける必要はありません。
台湾では「完成イメージを共有するために加工する」という文化が一般的であり、むしろ顧客への配慮の一環とも言えます。
ただし、実際に施工された店舗の写真が少ない場合は注意が必要です。
実績の信頼度を測るには、CG画像と実写のバランスを見ることが大切です。
同じデザイナーの複数案件を見比べる理由
ポートフォリオを見る際には、一つの案件だけで判断するのではなく、同じデザイナーが手掛けた複数のプロジェクトを比較することをおすすめします。
なぜなら、デザインの「一貫性」と「成長度合い」が見えるからです。
もし全く異なるスタイルの案件を幅広く手掛けているなら、それは柔軟性の高さを示します。
一方で、どの案件も似た印象である場合は、得意分野が明確であり、同じ方向性のプロジェクトに強いと判断できます。
また、施工クオリティの安定度もここで見抜けます。
たとえば、カフェでもオフィスでも“仕上げの端部処理”が常に整っているなら、その会社は現場の職人教育が行き届いている証拠。
逆に、案件ごとに仕上がりがバラついている場合、外注体制が多く、施工品質の管理が一定でない可能性があります。
作品群を「並べて見る」ことは、その設計会社の組織力を評価する最も確実な方法の一つです。
“完成度”より“誠実さ”を感じる写真とは
最終的に、どんなに整った写真よりも重要なのは「誠実さが伝わるかどうか」です。
例えば、工事中の写真を敢えて掲載している設計会社があります。
これは、現場のリアルを隠さず、プロセスも含めて自社の仕事を見せる姿勢の表れです。
また、クライアントと一緒に撮った完成記念写真を掲載している会社も信頼できます。
そこには、「仕事を納めた後も関係が続いている」というメッセージが込められています。
台湾では“写真の完成度”を重視する文化がありますが、日本の出店者にとって本当に見るべきは“その会社の姿勢”です。
光り輝く店舗写真の裏に、人の手で積み上げられた努力や信頼が感じられるか。
その感覚的な判断こそ、最終的に良いパートナー選びへと導きます。
第3章:図面・資料の中に潜むプロの証拠
―プレゼン資料は「技術力」の鏡である―
台湾の設計会社のポートフォリオを見ていると、完成写真ばかりに目を奪われがちですが、実は「図面」や「資料」にこそその会社の真の実力が現れます。
図面は、デザインの世界観を“形”に変えるための設計者の言語であり、同時に現場と設計をつなぐ共通の約束事でもあります。
ところが、日本の設計文化と台湾の設計文化には、この図面に対する“重み”が大きく異なります。
日本では図面が施工精度を担保する中心的な役割を果たしますが、台湾では「デザインの方向性を示す資料」という位置づけであることも多いのです。
したがって、日本企業が台湾で設計会社を選ぶ際には、図面や資料にどの程度の“実務的深度”があるのかを見抜くことが重要になります。
平面図の「動線設計」に注目せよ
最も基本的でありながら、最も奥が深いのが「動線設計」です。
台湾の設計会社の中には、空間の印象を重視するあまり動線計画が軽視されているケースがあります。
例えば、入口付近に装飾的な構造物を置くことで来店導線を狭めてしまったり、レジとキッチンの動線が交錯してオペレーション効率を下げてしまうことがあります。
日本では、1mm単位で動線を詰めることが当たり前ですが、台湾では「雰囲気」や「流れの印象」を優先する傾向があるのです。
したがって、ポートフォリオ内に平面図が掲載されている場合は、まず「人の流れ」がどのように設計されているかを見ましょう。
- お客様の導線
- スタッフの動線
- そしてバックヤードの動線
この三つが衝突せず、スムーズに流れているか。
それが整っていれば、その設計会社は“現場オペレーションを理解している”と判断できます。
図面に描かれた矢印の向きひとつで、設計者の思考の深さが見えてくるのです。
断面・展開図で見える“現場との距離感”
平面図の次に注目すべきは、断面図や展開図の扱い方です。
台湾の設計資料ではこれらの図面が簡略化されていることが多く、詳細な寸法や仕上げの層構成が省かれている場合があります。
これは、台湾では「現場で微調整する」文化が根付いているためです。
一方で、日本の施工現場では、設計段階での図面がすべての基準になります。
したがって、ポートフォリオに展開図が掲載されているかどうかでその会社の“現場への意識”がわかります。
壁面の立ち上がりや什器の高さ、照明器具の位置などが明確に描かれている場合、その設計会社は現場を理解し、精度の高い設計を行っている可能性が高いです。
逆に、断面図や展開図がほとんどなく、パース(3Dイメージ)ばかりを載せているポートフォリオは、“見せる設計”に偏っているかもしれません。
図面が精緻であればあるほど、設計者と現場監督との距離が近い──
これは日台共通の真理です。
仕上げ表や素材リストの書き方に見る誠実さ
図面の端や別ページに記載される「仕上げ表(Finishing Schedule)」や「素材リスト」は、地味ながら非常に重要です。
ここには、どの部位にどんな素材を使用しているか、メーカーや品番、施工方法までが書かれています。
台湾の設計会社の中には、この部分を非常に丁寧に作り込む会社もあります。
そうした会社は、デザインだけでなく“コストと現場のバランス”を理解している証拠です。
一方、素材リストが「木」「石」「塗装」といった抽象的な表現だけで終わっている場合、施工段階でトラブルが起こる可能性が高まります。
また、仕上げ表に“ローカル材料”が多く登場している場合は、その会社が台湾の市場をよく知っている証拠でもあります。
つまり、素材リストは“誠実さ”を映す鏡。
どこまで細かく、どこまで現場を意識して書かれているかが、設計者の姿勢を雄弁に語るのです。
納まり図の有無でわかる“施工理解度”
日本の内装業界では「納まり図」が現場品質を決定づける要です。
カウンターと壁の取り合い、ガラスパーティションの固定方法、天井と照明器具の隙間処理──
これらを正確に設計図に落とし込む力が、プロの証です。
台湾の設計会社では、こうした納まり図を描かないケースも少なくありません。
その理由は、「細かい部分は現場で調整すればいい」という文化的背景にあります。
しかし、日本企業が求めるクオリティを台湾で再現するには、設計段階での納まり図が不可欠です。
ポートフォリオ内にその一部が掲載されている場合、それは大きな信頼材料になります。
特に、複雑な造作家具や照明デザインを扱う案件で、納まり図を示している会社は、現場理解度が非常に高いといえるでしょう。
図面の枚数は、そのまま「精度へのこだわり」の表れなのです。
「魅せる提案」と「実現できる提案」の違い
台湾では、デザインコンペや入札の段階で「魅せる提案」を重視する傾向があります。
そのため、グラフィック的に美しいパースやスライド資料が多く、見た目の完成度は非常に高いです。
しかし、それがそのまま“実現可能な設計”であるとは限りません。
ここを見抜くには、提案資料の中に「施工工程」や「構造図」が含まれているかどうかを確認することが有効です。
また、パースに描かれた家具や照明が実在するメーカー製品かどうかも、プロならすぐに判断できます。
もしすべてがオリジナル造作で描かれている場合は、施工コストや工期が不明瞭になりがちです。
「魅せる提案」は情熱の証ですが、「実現できる提案」は経験の証。
ポートフォリオの中に“どちらの要素が多いか”を読み取ることで、その会社がどんな設計思想を持っているかが見えてきます。
日本企業にとって理想なのは、デザイン性と施工性のバランスを理解した「実現できる美しさ」を提案できるパートナーを選ぶことです。
第4章:ストーリーで見る「企業としての信頼性」
―作品をつなぐ“物語”がある会社は強い―
ポートフォリオは単なる「作品集」ではありません。
そこには、企業としての姿勢、設計チームの価値観、クライアントとの関係性など、言葉にできない“物語”が詰まっています。
台湾の設計会社や内装工事会社を選ぶ際、単発のデザインの美しさだけを見てしまうと、その企業の本当の力を見誤ることがあります。
むしろ、複数の案件を通じて一貫したテーマや哲学が感じられるかどうか──ここに、その会社の「信頼性」と「成長力」が表れます。
リピート案件の多さが示す「信頼の証」
ポートフォリオに掲載されている案件の中で、同じブランドや企業のプロジェクトが複数登場している場合、それは非常に重要なサインです。
台湾では、顧客との信頼関係が続けば、次の店舗やリニューアルの際にも同じ設計会社に依頼することが一般的です。
つまり、リピート案件がある=信頼を得ている会社といえます。
たとえば、カフェチェーンの2号店・3号店を同じ会社が手がけている場合、その設計会社はブランド理解が深く、現場対応力にも優れていると判断できます。
また、長期にわたって同じクライアントと取引している会社ほど、設計だけでなく「経営的な安定性」もあることが多いです。
ポートフォリオを読み解くときには、“作品の数”ではなく“同じ顧客との深さ”に注目してください。
それこそが、台湾の設計会社を見極める上での隠れた指標です。
店舗ブランドとの関係性から見える提案力
もう一つ注目すべきは、「クライアントブランドとの関係性」です。
台湾の設計会社の中には、特定の業種──
たとえば飲食店、美容サロン、オフィス空間──に特化した会社が多く存在します。
その専門分野に精通していれば、空間設計だけでなく「ブランド体験」をデザインできるという強みを持っています。
ポートフォリオの中に、同じ業界の案件が多数掲載されている場合、それはその会社が“業界構造を理解している”証拠です。
例えば、美容室の案件では照明の色温度設定が絶妙だったり、カフェでは座席レイアウトが滞在時間を意識して設計されているなど、ブランド理解が設計に反映されている例が見られます。
日本企業が台湾で出店する際には、単に「おしゃれなデザイン」よりも「ブランドの世界観をどこまで共有できるか」に注目すべきです。
提案の中に、ブランドの物語が感じられる会社は、長く付き合えるパートナーとなります。
会社紹介文に潜む「理念」と「現場のギャップ」
ポートフォリオの最初の数ページには、たいてい会社紹介文や代表メッセージが掲載されています。
ここには、その企業の理念やデザイン哲学が書かれていることが多いのですが、実はこの部分を読むことで“理念と実践のギャップ”を見抜くことができます。
たとえば、「人と人をつなぐ空間づくりを目指しています」と書かれていながら、掲載作品がどれも個人主義的でバラバラな印象であれば、それは理念が表面的である可能性があります。
逆に、文章が簡潔でも、掲載写真に一貫した世界観がある会社は、理念を地に足のついた形で実践している証拠です。
また、台湾の会社紹介文では「家族的」「温かさ」「誠実」といった言葉がよく使われます。
これは単なる美辞麗句ではなく、台湾のビジネス文化そのものを表しています。
そこに「現場とのつながりを大切にしている」「施工チームと協働している」といったフレーズがある場合、その会社は“デザインだけで完結しない姿勢”を持っているといえます。
理念文は、会社の“魂”を映す鏡です。そこに空虚さがないかを見極めましょう。
社員紹介・チーム体制から見える人材の厚み
優れた設計会社ほど、ポートフォリオの中でチーム体制を紹介しています。
誰がデザインを担当し、誰が施工を監理しているのか──
この情報は、企業の信頼性を判断する上で非常に重要です。
台湾では、設計担当者が転職を繰り返すことも多く、担当者の顔が見えない会社はプロジェクトの継続性に不安を残す場合があります。
逆に、デザイナーや監督の顔写真・経歴がきちんと掲載されているポートフォリオは、チームとしての責任感が強く、安心感があります。
また、「設計」と「施工監理」が同じチーム内で連携しているかどうかも大切です。
日本企業が求める品質を維持するには、図面と現場が密に連動していることが不可欠だからです。
チーム体制の紹介ページを見れば、その会社が“人”を中心に仕事をしているか、それとも“案件単位”で動いているかが見えてきます。
顔が見える会社は、トラブルが起きたときも信頼して任せられる会社です。
プロジェクトごとの“顧客ストーリー”を追う
最後に注目してほしいのは、各プロジェクトの説明文です。
台湾の設計会社の中には、単に「どんなデザインをしたか」を説明するのではなく、「どんな課題があり、どう解決したか」を物語として書く会社があります。
この“顧客ストーリー”の有無が、その会社の成熟度を大きく分けるポイントです。
たとえば、「オーナーの夢を形にするために、限られた予算で素材を工夫した」「施工途中で予期せぬ問題が起きたが、現場と協力して乗り越えた」など、具体的なエピソードが書かれていれば、その会社は現場を大切にしている証拠です。
一方で、「コンセプトは自然」「テーマは癒し」など抽象的な表現ばかりが並んでいる場合、現実的な課題解決力には疑問が残ります。
日本企業にとって理想的なのは、デザインと経営の両方を理解した“伴走型の設計会社”です。
ストーリーがあるポートフォリオには、そうした信頼関係の積み重ねが滲み出ています。
そこに描かれているのは、単なる店舗の完成写真ではなく、「人と人が築いた信頼の記録」なのです。
第5章:数値と実績で見る「経営の安定性」
―デザインだけでは測れない“企業力”を読む―
台湾で設計会社や内装工事会社を選ぶとき、つい「デザイン力」や「提案力」に目が行きがちですが、もう一つ見逃せない指標があります。
それが「経営の安定性」です。
どんなに優れたデザインをしても、企業体制が脆弱であれば、工期の遅延や支払いトラブル、アフターフォローの欠如といった問題が発生するリスクがあります。
海外出店というプロジェクトでは、言語・法規・文化の壁があるため、「安定して仕事を完遂できる会社かどうか」を見抜く力が必要です。
年間施工件数とスタッフ数のバランスを読む
まず確認したいのは、「年間施工件数」と「スタッフ規模」のバランスです。
ポートフォリオや会社紹介ページには、「過去〇年で〇件以上の施工実績」といった記載がよく見られます。
この数字を読むときは、単純に多い少ないで判断するのではなく、スタッフの人数と照らし合わせて見ることがポイントです。
たとえば、デザイナー5名・監督3名の小規模チームで年間100件以上を手がけている場合、案件ごとの管理が行き届かない可能性があります。
逆に、施工件数が少なくても、1件1件に深く関わり、高い満足度を維持している会社の方が信頼性は高いです。
また、会社として「どの規模の案件を得意としているか」も重要な判断材料です。
オフィスビルや百貨店テナントなど大規模案件が多い会社は管理体制が整っている傾向にありますが、小規模飲食店や個人店舗に柔軟に対応できる会社は、顧客対応のきめ細かさが魅力です。
施工件数とスタッフ数の“釣り合い”が取れている会社ほど、経営が安定しているといえるでしょう。
プロジェクト規模の偏りから見る得意分野
次に注目すべきは、「どんな規模・業種の案件が多いか」という点です。
ポートフォリオに掲載されたプロジェクトの内容をよく見ると、その会社の得意分野が見えてきます。
台湾では、飲食店やカフェ、オフィス、クリニック、住宅、ホテルなど、多様な分野で設計会社が活動しています。
もし掲載案件が特定業種に集中しているなら、それはその分野に特化している証拠です。
一方で、業種がバラバラすぎる場合は、案件を“取れるものから取っている”だけの可能性があります。
また、あまりにも大手ブランド案件ばかりを掲載している場合は、「実際の関与範囲」がどこまでかを確認する必要があります。
ロゴ協力や部分施工など、限定的な関与であることも少なくありません。
台湾のポートフォリオには、華やかな名前を並べる文化がありますが、そこに惑わされず、「どの段階からどの範囲を担当していたのか」を確認することが大切です。
得意分野が明確であり、案件内容に一貫性がある会社は、経験に裏打ちされた安定感を持っています。
コラボ実績が示す「業界内での信用度」
設計会社の信用力は、業界内での人間関係にも表れます。
ポートフォリオの中に「他社とのコラボ実績」や「メーカー・ブランドとの共同案件」が掲載されていれば、その会社は同業からの信頼を得ている証拠です。
台湾では、建材メーカーや照明ブランドと共同でショールームや展示空間を手がけることが多く、そうした実績は技術力の高さを裏付けます。
また、設計事務所同士でのコラボ案件も注目ポイントです。
たとえば、海外ブランドの台湾出店で、日本側の設計者と協働しているケース。
このような事例がある会社は、国際的なコミュニケーション能力や調整力を持っているといえます。
さらに、教育機関や公共施設など“信頼性を重視する案件”を担当している会社は、経営的にも安定しています。
コラボ実績は、単なるデザインの成果ではなく、「業界内での信用通貨」のようなもの。
それを持っている会社ほど、長く存続できる体力があります。
アフターケアや改装案件の掲載有無を確認する
ポートフォリオの中で、意外と見落とされがちなのが「アフターケア」や「リニューアル案件」の存在です。
台湾では、開業後数年で改装を行う店舗が多く、そのときに同じ設計会社が再び依頼を受けているかどうかが、信頼のバロメーターになります。
改装案件が掲載されている場合、その会社は「竣工後の対応力」を持っているということです。
また、ポートフォリオの中で「Before→After」形式の紹介がされていれば、それも顧客との関係が続いている証拠。
施工後のメンテナンスや設備更新に関する写真やコメントがあれば、その会社は責任感が強く、アフター体制を整えています。
逆に、完成直後の華やかな写真だけを並べている会社は、短期的な案件中心の可能性があります。
出店後の修繕・運営サポートまでを想定している会社ほど、経営が安定しており、日本企業にとって安心して任せられるパートナーです。
“綺麗な作品”より“続く実績”を重視する視点
最後に強調したいのは、「美しい作品」よりも「継続して仕事がある実績」を見るという視点です。
デザイン業界では、受賞歴やビジュアルの完成度が注目されがちですが、経営の安定性を測るうえでは、いかに長く顧客から信頼され続けているかが本質です。
台湾では、小規模でも10年以上継続している内装会社が多く存在し、そうした企業は地味ながらも確実な仕事を積み上げています。
ポートフォリオの中で、創業年・主要取引先・リピート率などの数値が明記されている会社は、自社の信頼性に自信を持っている証です。
また、企業のSNSやWebサイトを見て、施工事例が定期的に更新されているかどうかも確認しましょう。
更新が途絶えている会社は、プロジェクト数が減少しているか、運営体制に課題を抱えている可能性があります。
安定して案件をこなしている会社は、必ず継続的に情報発信を行っています。
台湾でのパートナー選びにおいて、華やかなデザインよりも、「信用」と「継続」を重視することが、結果的に成功への最短ルートとなるのです。
これまでの第1章〜第5章を踏まえ、読者が“実際に台湾の設計会社・内装工事会社を選ぶ際に行動へ移せるように”意識して構成しています。
全体まとめ:「写真ではなく、“信頼”を選ぶ時代へ」
―台湾の設計会社を見極める、真の“ポートフォリオ読解力”とは―
台湾で店舗を出店する際、多くの日本企業が最初に手に取るのが「設計会社のポートフォリオ」です。
そこには華やかな写真、美しいCG、スタイリッシュな空間が並び、一見するとどれも魅力的に見えます。
しかし、ポートフォリオは単なる「デザインカタログ」ではありません。
その裏側には、設計者の思想、現場の実力、組織としての信頼性、そして経営の安定性までが映し出されています。
つまり、ポートフォリオを“読む力”こそが、海外出店の成否を分ける最初の判断力なのです。
見た目の美しさの奥にある「思想」を読み取る
第1章で触れたように、台湾のデザインは日本とは異なる文化的背景を持っています。
「抜け感」や「開放感」を重視するデザインには、台湾の気候・風土・人の流れに根差した思想があります。
その設計が“なぜこの形になったのか”を想像できるかどうかが、良いパートナー選びの第一歩です。
単なる「おしゃれ」ではなく、「思想を持った空間づくり」をしている会社こそ、信頼すべき設計会社です。
写真の裏にある“現場力”に注目する
完成写真がどれだけ美しくても、それが現場で再現できなければ意味がありません。
光の方向、影のライン、素材の質感──これらをじっくり観察すると、施工精度や職人の技術力が見えてきます。
台湾ではCGや補正画像も多いですが、実際の施工写真をしっかり掲載している会社は“誠実な現場体制”を持っています。
写真を「見て終わり」にせず、「この仕上がりをどう実現したのか?」という問いを立てることが重要です。
図面と資料は、設計者の“誠実さ”の証
設計会社のポートフォリオに含まれる図面や仕上げ表、納まり図は、デザインの裏づけそのものです。
ここにどれだけ詳細な情報が含まれているかで、その会社の“現場理解度”がわかります。
台湾では、図面文化が日本ほど厳密ではありません。
だからこそ、「図面を丁寧に描く会社」は、それだけで信頼に値します。
美しいだけでなく、「実現できるデザイン」を描ける会社を選ぶことが、結果的にコスト・工期・品質すべてを安定させる秘訣です。
ストーリーがある会社は、信頼の厚い会社
ポートフォリオの中に、同じブランドの複数案件やリニューアル案件が掲載されている場合、その会社は顧客からのリピートを得ています。
これは何よりも強い信頼の証です。
また、プロジェクトごとの“課題と解決”をストーリーとして語っている設計会社は、顧客との関係を大切にしている証拠。
企業理念と現場の姿勢が一致しているか、チーム体制が明確か──
その「人の見える設計会社」を選ぶことが、台湾で成功する鍵になります。
“数字と継続性”こそが安定経営の証明
そして最後に、ポートフォリオの中の「数値」を見逃してはいけません。
施工件数、創業年数、チーム規模、コラボ実績、リニューアル案件──
これらの数字は、会社の経営体質を反映しています。
台湾では、小規模でも長く続けている会社が多く、そうした企業ほど地道に信頼を積み重ねています。
「華やかな受賞歴」よりも、「10年続く実績」を持つ会社を選ぶ。
それが、トラブルを防ぎ、長期的なパートナーシップを築くための最良の選択です。
台湾で成功するために必要なのは、“見る目”と“信頼”
台湾の設計会社や内装工事会社には、才能あふれるデザイナーと、現場を熟知した職人たちが数多く存在します。
しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出せるかどうかは、日本側の「見る力」にかかっています。
写真の華やかさだけでなく、そこにある“思想・現場・人・数字”を総合的に読み取ること。
それが、日台の信頼関係を深め、互いの強みを生かした最高の空間づくりへとつながります。
ポートフォリオとは、単なる作品集ではなく、「会社の人格」そのものです。
そして、良い設計会社とは、美しい空間を作るだけでなく、誠実に人と向き合う会社です。
見た目ではなく、“信頼”で選ぶ──
その意識こそが、これからの台湾出店を成功へ導く最大の武器になるでしょう。


