台湾で店舗を出店するとき、「図面と仕様書があれば十分」と思っていませんか?
しかし、台湾の内装設計・内装工事の現場では、“言葉”が品質を決めることがあります。
図面通りに進まない、意思が伝わらない──
そんなトラブルの多くは、実は“言語の壁”ではなく、“文化とニュアンスの壁”が原因です。
この記事では、台湾の店舗設計・店舗内装・オフィス改装など、実際の現場で使える「内装現場中国語」をプロの視点で徹底解説。
明日から現場でそのまま使える一言、台湾人スタッフとの関係を深める話し方、そして“言葉を超えて信頼を築く”ためのヒントをまとめました。
日本から台湾への店舗出店を成功させる鍵は、完璧な中国語よりも、伝わる心と伝える工夫にあります。
第1章 台湾現場では“言葉の壁”より“ニュアンスの壁”が大きい
日本の設計者や監督が台湾の内装工事現場に立ったとき、最初に感じるのは「言葉が通じない」ことよりも、「伝えたつもりが伝わっていない」ことです。
同じ中国語でも、現場での意味合いは文法よりも“ニュアンス”で決まります。
台湾の職人たちは日本人よりも会話の空気や感情を重視するため、言葉そのものよりも言い方や雰囲気で指示の受け取り方が変わります。
「伝わる中国語」よりも「伝わっている中国語」を意識することが、信頼関係を築く第一歩です。
日本語の「お願いします」が台湾では通じにくい理由
日本の現場で「お願いします」と言えば、それは相手への敬意を含んだ依頼のサインです。
しかし台湾の現場では、同じ意味合いで「麻煩你(マーファンニー)」と言っても、場合によっては「手間をかけるけどやってくれ」という“軽い命令”に聞こえることがあります。
台湾人職人の耳には、声のトーンや表情、タイミングによって「命令された」と感じることも少なくありません。
この微妙なニュアンスの違いが、後々のコミュニケーションに大きな影響を与えるのです。
筆者が実際に経験した例では、日本人監督が「麻煩你修一下這裡(ここ直してもらえますか)」と伝えたところ、職人が不機嫌になってしまったケースがありました。
理由を聞くと、「“麻煩你”と言われる前に、なぜ直す必要があるのか説明してほしかった」とのこと。
つまり台湾では、依頼よりも“共感の前置き”が重要なのです。
「ここ、少し心配なんだ。麻煩你幫我看一下(ちょっと心配だから、見てもらえる?)」のように、相手を思いやる一言を添えることで関係は格段にスムーズになります。
「大丈夫です」は危険信号?曖昧表現の落とし穴
日本語で便利な「大丈夫です」は、台湾現場では誤解を生む代表的な言葉です。
中国語で「沒問題(メイウェンティ)」と言うと、本当に“何の問題もない”という意味になります。
ところが日本人が口にする「大丈夫です」には、「今は問題ない」「たぶん大丈夫」「多少は気になるが許容範囲」といった曖昧な幅があります。
台湾人職人は「沒問題=完璧にOK」と受け取るため、後から「やっぱり直してください」と言われると混乱します。
これは文化的な誤差であり、誰も悪くありません。
しかし現場では時間とコストに直結するため、曖昧表現はトラブルのもとになります。
筆者がすすめているのは、「今の状態ではOKです」「まだ確認中ですが大丈夫そうです」など、段階を明確にした言い方です。
中国語でも「目前沒問題(今のところ問題なし)」「我再確認一次(もう一度確認します)」と補足すれば、誤解を防げます。
言葉の正確さ以上に、「後で修正がないか」を先に伝えることが台湾の現場では信頼に変わります。
指示よりも「相談」を重視する台湾流コミュニケーション
台湾の内装工事文化では、「上から下へ指示を出す」という日本的な縦社会の構造があまり強くありません。
現場の工頭(現場リーダー)や職人たちは、設計者の指示よりも“相談ベースのやり取り”を好みます。
そのため、命令形の言い方や断定的な口調は避けた方が無難です。
「こうしてください」よりも「こうしたらどう思いますか?」という聞き方に変えるだけで、反応はまったく違います。
台湾では「尊重(リスペクト)」という言葉が重視され、相手の意見を聞く姿勢が“信頼の証”と見なされます。
この点で、日本の「指示型マネジメント」よりも、台湾は「協議型マネジメント」に近い文化を持っています。
現場での一言が、指示ではなく“対話”になるように意識しましょう。
「這樣做可以嗎?(このやり方でいい?)」や「你覺得哪個比較好?(どっちがいいと思う?)」と聞くだけで、相手の表情が和らぎます。
このスタンスは、台湾で成功している日系企業の共通点でもあります。
台湾の職人が好む“柔らかい依頼”の言い方
台湾の職人は、自らの職業に誇りを持っています。
そのため、命令形で伝えるよりもお願いの形で伝える方が結果的にスピーディーに動いてくれます。
たとえば「幫我修這裡(ここ直して)」よりも、「不好意思,可以幫我一下嗎?(すみません、ちょっとお願いできますか?)」の方が断然通じやすい。
この“柔らかさ”は、台湾の人間関係における「圓滑(円満)」の文化に根ざしています。
強い言葉で言えば言うほど、相手の心が閉じてしまう。
逆に、やや遠回しな言い方でも「思いやりのある依頼」と受け取られれば、驚くほど動きが早くなるのです。
日本人がよく言う「すみませんが〜」というクッション言葉は、台湾でも非常に効果的です。
「麻煩你一下(少しお願いしてもいい?)」や「幫我看一下(ちょっと見てほしい)」のように、柔らかく語尾を下げるだけで印象はまるで違います。
この“言葉の温度”こそが、台湾現場での信頼をつくる最大の鍵です。
「伝わる」より「伝わっているか確認する」姿勢を持つ
日本人の現場監督が陥りやすいのは、「指示を出した=理解された」と思い込むことです。
しかし台湾では、聞き手がうなずいていても、必ずしも理解しているとは限りません。
多くの場合、相手はその場の空気を壊さないように「はい」と答えているだけなのです。
そこで重要なのが、「確認の文化」を持ち込むことです。
指示を出したあとに「那我們這樣做,對嗎?(このやり方で合ってる?)」と聞き返すだけで、ミスを大幅に減らすことができます。
また、写真を撮って共有したり、手書きスケッチを添えるなど、視覚的に補足する方法も非常に有効です。
言葉の壁よりも、意思確認の壁のほうが高い——
それを乗り越えるためには、「伝えたつもり」ではなく「伝わったかどうか」を常に確かめる姿勢が欠かせません。
台湾の内装設計・内装工事の現場で信頼を得る人は、言語力ではなく“確認力”に優れた人なのです。
第2章 今日から使える!台湾内装現場で役立つ基本フレーズいろいろ
台湾での内装工事現場は、まさに“言葉と空気”が交錯する空間です。
設計図の上では明確なはずの指示が、現場に降りた瞬間に解釈が変わる──
そんなときこそ、現場で一言添えられる“生きた中国語”が力を発揮します。
言語の壁は、正確な文法でなくても越えられます。
大切なのは、相手が気持ちよく動けるような言葉を選ぶことです。
この章では、台湾の店舗設計・内装設計・店舗改装・オフィス内装など、あらゆる現場で実際に使える「現場中国語」を、場面ごとに紹介します。
単なるフレーズ集ではなく、“なぜその言い方が通じるのか”というニュアンスの背景にも触れながら、今日から現場で役立つ言葉を身につけていきましょう。
現場到着時に使う「はじめの一言」フレーズ
台湾の工事現場は、朝から明るい挨拶で始まります。
その日の空気を決めるのは、最初のひと声です。
「おはようございます」に相当する「早安(ザオアン)」はもちろんですが、現場では少しくだけた「辛苦了(お疲れさまです)」が非常に自然です。
この言葉には、相手の努力を労うニュアンスが含まれており、日本で言う「おつかれさま」と「ありがとうございます」の中間のような温度感です。
例えば現場に入るときは、
- 「大家早(みんなおはよう)」
- 「辛苦了,今天也麻煩你們了!(今日もよろしくお願いします!)」
と声をかけてみましょう。
台湾の職人たちは、このひとことに心を開きます。
また、初対面の職人に会うときは、
- 「你好,我是日本設計師○○(こんにちは、日本の設計士○○です)」
と名乗りましょう。
台湾では肩書きよりも“人柄”を重視するため、笑顔で自己紹介するだけで信頼の土台ができます。
寸法・仕上げ・色などを指示する実践フレーズ
設計図を見ながら指示を出す際に、台湾では寸法単位の違いにも注意が必要です。
日本の「mm」や「cm」は通じますが、現場では「公分(ゴンフェン)」が主流です。
たとえば「もう5mm下げてください」は、「再往下五公厘」ではなく、「再低一點(もう少し下げて)」のように感覚的に言う方が自然です。
仕上げについては、「平一點(もう少し平らに)」「再亮一點(もう少し明るく)」など、“形容詞+一點”が万能です。
完璧を求めるよりも、「あと少し」を伝える表現が、台湾職人のモチベーションを上げます。
色に関しては、
- 「這個顏色太深(この色は濃すぎる)」
- 「可以亮一點嗎?(もう少し明るくできますか?)」
という表現がよく使われます。
また、台湾では仕上げ材の表面感を「光澤(ツヤ)」と「霧面(マット)」で表すので、
「要霧面喔!(マットでお願いします)」のように指定すると伝わりやすいです。
こうした一言を添えるだけで、「図面だけでは冷たい印象」から「一緒に仕上げを作る感覚」へと変わります。
修正や再施工をお願いするときの丁寧な言い回し
台湾の職人は、直しの指示に敏感です。
強い言葉で「錯了(間違ってる)」と言うと、相手の“面子”を傷つけてしまいます。
そのため、指摘よりも“相談調”が効果的です。
たとえば、
- 「這裡是不是可以再調一下?(ここ、少し調整できますか?)」
- 「看起來好像有一點歪,要不要再看看?(ちょっと曲がってるみたい、見てみましょうか?)」
と伝えると、相手のプライドを守りながら修正が進みます。
台湾の現場では、“一緒に考える”という姿勢が何より重視されます。
- 「你覺得呢?(どう思う?)」
と最後に添えるだけで、指示が対話に変わるのです。
また、やり直しを頼むときは
- 「不好意思,可以麻煩你再修一次嗎?」(すみません、もう一度直してもらえますか?)
と、必ず“申し訳なさ”を表す「不好意思(ブーハオイース)」を前置きしましょう。
この一言があるだけで、相手の反応はまるで違います。
工期・納期に関する伝え方と交渉のコツ
台湾の工期管理は日本より柔軟です。
そのため、「明日までに」と言っても「明日から始める」の意味で受け取られることがあります。
納期を伝えるときは、「具体的な日付」と「目的」をセットで言うのがポイントです。
たとえば、
- 「這個部分星期五要完成,因為週末要拍照(この部分は金曜日までに終わらせて、週末に撮影があります)」
と伝えれば、理由が明確なので理解されやすくなります。
単に
- 「快一點(急いで)」
と言うよりも、
- 「因為〜所以〜(〜だから〜)」
を使うことで、“押しつけ”ではなく“共有”になります。
また、期日の確認には
- 「我們一起確認一下時間表,好嗎?(スケジュール一緒に確認しましょう)」
が便利です。
台湾人は共同作業を好むため、“一緒に”という姿勢を見せるだけで協力的になります。
最後に納期が近づいたときは、プレッシャーをかけるより
- 「辛苦了,快好了!(もうすぐ完成だね、ありがとう!)」
と声をかけると、笑顔でラストスパートしてくれます。
打ち上げや感謝の場で使う“信頼を深める”一言
台湾の現場文化では、プロジェクトの終盤に「謝謝(ありがとう)」を何度も伝えるのが礼儀です。
特に「辛苦了!」は魔法の言葉。
現場の誰に対しても、労いと感謝の気持ちを込めて言えます。
- 「大家辛苦了,今天真的很漂亮!(みんなお疲れさま、今日の仕上がり本当にきれいです!)」
- 「多謝你的幫忙,下次還要麻煩你喔!(手伝ってくれてありがとう、次回もよろしくね!)」
こうした“前向きな一言”が、台湾の現場での信頼を長く保つ秘訣です。
また、打ち上げの席などで
- 「今天真的合作得很好(今日は本当にいいチームワークでした)」
と伝えると、台湾人スタッフは心から喜びます。
彼らは仕事の成果以上に、「人との関係がうまくいった」ことを誇りに感じる文化を持っているからです。
そして別れ際には、ぜひ笑顔で
- 「下次見!(またね)」
と声をかけてください。
この一言が、次の現場をよりスムーズにしてくれる“信頼の種”になります。
台湾の内装設計・内装工事の現場では、完璧な中国語よりも「思いやりのある一言」が最も強い力を持ちます。
設計図で決まるのは“仕様”ですが、現場を動かすのは“言葉の温度”です。
どんなに忙しくても、「伝える」だけでなく「伝わる」を意識する。
それが、台湾で成功する日本の店舗設計者・現場監督に共通する姿勢です。
第3章 設計図では伝わらない“現場のリアル”を言葉で補う
台湾での内装設計や店舗工事の現場では、図面そのものよりも“その場の会話”が優先されることが少なくありません。
設計者として「図面に書いてある通りにやってほしい」と思っても、台湾の現場では「書いてあるけど、どう仕上げたいのか」を直接聞きに来る職人が多いのです。
それは、台湾の施工文化が「現場判断」に大きく依存しているからです。
日本では、詳細な図面が現場を動かしますが、台湾では“言葉による合意”が最後の決定を下します。
したがって、図面ではなく、言葉が現場の最終設計図になるのです。
台湾職人の「図面を信じすぎない」文化的背景
台湾の職人たちは、図面を“参考資料”として扱います。
これは、悪い意味ではなく「図面は状況に合わせて変える前提」という文化が根づいているためです。
その背景には、台湾の建築や内装業界における“現場主導の歴史”があります。
台湾の内装工事会社の多くは、家族経営や小規模チームで動いており、工頭(現場監督)やベテラン職人の経験が尊重されます。
そのため、図面があっても「この状況ならこっちのほうが早い」「材料が足りないから別の方法で」という判断が自然と行われます。
日本のように「設計図=絶対」ではないのです。
設計者が図面を渡しても、「了解しました」と言われた後に現場で微妙に違う施工が行われることがあります。
それは反抗ではなく、“より良い仕上げ”を自分の経験で補っているつもりなのです。
この文化を理解した上で、「なぜその通りにしてほしいのか」を説明することが大切です。
単に「図面通りに」と命じるより、「この寸法には意味がある」と伝えれば、職人たちは真剣に耳を傾けます。
「設計師」と「工頭」の間にある感覚のズレ
台湾の内装現場では、「設計師(デザイナー)」と「工頭(現場責任者)」の間に明確な役割分担があります。
設計師は美的バランスやブランドイメージを重視し、工頭は工程・コスト・安全性を優先します。
しかし、この二者の考え方のズレがトラブルの温床になります。
日本では設計者と現場監督が密に連携し、現場で図面の意図を共有しますが、台湾では“それぞれの専門領域に踏み込まない”という暗黙のルールが存在します。
つまり、「設計師はデザインを」「工頭は現場を」という分業意識が強いのです。
そのため、日本人設計者が細かく現場に口を出すと、工頭は「信用されていない」と感じることがあります。
逆に、工頭の判断でデザインを変えると、設計師は「勝手に変えられた」と不満を抱く。
このギャップを埋めるためには、「相談」という形で関わることが鍵です。
たとえば
- 「我想問一下,這個角度如果改成這樣,會不會比較穩?(この角度をこう変えたら安定しますか?)」
と聞くだけで、命令”が“協議”に変わり、関係が良好になります。
台湾現場では、立場よりも“歩み寄り”が信頼を生みます。
寸法誤差の伝え方で現場が変わる
日本では、図面に1mm単位で寸法を記載するのが当たり前です。
しかし台湾の現場では、「±5mm程度」は誤差の範囲と考えられています。
そのため、「ここ5mmズレてますよ」と指摘しても、「沒關係(問題ない)」と返されることがよくあります。
ここで感情的になるのは得策ではありません。
台湾では“完璧”よりも“現実的な範囲”を重視します。
「この部分は照明のラインと合うので、1mm単位で合わせたい」と理由を説明すれば、職人は納得して再施工してくれます。
つまり、「正しいことを言う」よりも、「なぜ必要なのかを伝える」ことが効果的です。
これは台湾の施工文化の本質であり、“合理より共感”を重視する姿勢が根底にあります。
また、
- 「再量一次(もう一度測ってください)。我幫你看一下(私も一緒に確認します)」
など、共に確認する姿勢を見せることで、信頼が格段に高まります。
指示ではなく“共働”の言葉を使うことが、台湾現場の潤滑油になります。
日本語の「微調整」をどう中国語で伝えるか
日本の現場ではよく使う「微調整」という言葉。
しかし、中国語にそのまま「微調整(ウェイティアオジェン)」と言っても、台湾ではやや抽象的すぎて伝わりません。
代わりに
- 「再修一下(もう少し直す)」
- 「調整一點點(ちょっとだけ調整する)」
と具体的に言うのが効果的です。
たとえば、
- 家具の位置を数センチ動かす場合は「往右一點(右に少し)」
- 照明の角度を直すときは「角度再低一點(角度をもう少し下げて)」
のように、“一點”を使って感覚的に伝えるのが台湾流です。
また、「ちょっと様子を見たい」と伝える場合は
- 「我們先看一下效果(まず仕上がりを見てみよう)」
と言うと、押し付けにならず柔らかく意図を伝えられます。
この「一緒に考えよう」という姿勢は、台湾の職人にとって非常に心地よく映ります。
言葉の選び方一つで、相手の態度が大きく変わるのが台湾現場の特徴です。
“微調整”という日本的な曖昧表現を行動で示す具体表現に置き換えることで、コミュニケーションの齟齬は大きく減ります。
現場で使う“目合わせ中国語”:指差し+一言の力
台湾の現場では、声よりも“目と指”が重要です。
職人たちは会話よりも視覚的なサインを好むため、「ここ」「これ」「このライン」といった指差し表現を組み合わせると圧倒的に伝わりやすくなります。
たとえば、指を差しながら
- 「這裡要平一點(ここ、もう少し平らに)」
- 「這個邊要修一下(この端、少し修正)」
と言えば、発音が多少違ってもほとんど誤解されません。
“体で伝える言葉”こそ、台湾の現場で最も実用的な中国語です。
さらに、スマートフォンで写真を撮って「這裡要一樣(ここを同じように)」と見せるだけでも十分です。
台湾の現場はスピード重視のため、図面よりも写真や手書きスケッチのほうが即座に共有できます。
つまり、図面+口頭+ジェスチャーの三位一体が最強の伝達手段なのです。
台湾の内装工事は、まさに“目と手と声”のハーモニーで進んでいきます。
言葉が完璧でなくても、熱意と工夫があれば確実に伝わる。
その実感こそ、台湾現場の面白さであり、学びの宝庫です。
図面は万能ではありません。
とくに台湾では、図面に書かれていない“思い”を現場で共有することが何より重要です。
- 言葉で補う
- 指で示す
- 共に確認する
この三つを意識するだけで、台湾の店舗設計・内装設計・店舗出店の現場は格段に円滑になります。
第4章 信頼を育てる現場会話:怒るより笑う方が伝わる
台湾の内装現場では、どれだけ言葉が正しくても、「伝え方」を誤ると一瞬で関係が冷えてしまいます。
日本では現場監督が厳しく指導することが“プロ意識”と見なされる場面もありますが、台湾では逆効果です。
職人たちは「面子(メンツ)」と「気持ちの温度」をとても大切にします。
怒鳴ったり、冷たい態度で接したりすると、翌日から動きが鈍ることさえあります。
一方で、笑顔を絶やさず、言葉のトーンに温かみを感じる人には、誰もが心を開きます。
つまり台湾の現場では、「技術」よりも「信頼」が先に現場を動かすのです。
声を荒げても意味がない:台湾流「面子(メンツ)」の文化
台湾では、「相手を人前で叱ること」は最大のタブーの一つです。
それは単なる礼儀の問題ではなく、“人格を否定された”と感じさせてしまう行為にあたります。
日本では「厳しく言うのは愛情」と捉えられる場面もありますが、台湾では「怒る人=信頼できない人」という印象を持たれてしまうのです。
たとえば現場で施工ミスを見つけた場合、「這裡錯了!(ここ間違ってる!)」と声を上げるのではなく、
- 「這裡是不是有一點問題?我們一起看一下(ここ、少し問題があるかも。一緒に見ましょう)」
と穏やかに言うほうが、相手の心に届きます。
台湾の職人は「尊重(リスペクト)」を非常に重んじます。
たとえこちらが正しくても、相手を“立てる”一言を添えることで、スムーズに動いてくれるのです。
言葉そのものよりも、「どんな態度で伝えたか」がすべてを左右します。
笑顔と柔らかい声で「面子を守る」ことが、台湾現場で信頼を勝ち取る第一歩です。
職人との関係は「上司・部下」ではなく「仲間」
日本の現場では、監督や設計者が“指揮官”として動くのが一般的です。
しかし台湾の内装現場では、職人と監督は「共に現場を作る仲間」として捉えられています。
この意識の差が、日台での現場空気の最大の違いです。
台湾では
- 「我們一起努力(いっしょに頑張ろう)」
という言葉が好まれます。
この“共に”という感覚を言葉に込めるだけで、チームの雰囲気は一変します。
筆者の経験では、監督が「這部分要改(ここ直して)」と言うよりも、
- 「我們一起把這邊做好看一點(ここ、もっときれいに仕上げよう)」
と言う方が、職人たちの目の色が変わります。
この「仲間意識」を生む会話こそ、台湾現場で最も重要なスキルです。
指示する立場であっても、上からではなく“並んで”話す。
この姿勢が、台湾の職人たちに安心感とやる気を与えます。
意見の対立を和らげる中国語フレーズ術
現場では意見の食い違いがつきものです。
ただし、台湾ではその「対立の処理」が日本よりもずっと繊細です。
言い争いになれば、たとえ正しくても負けです。
相手の立場を尊重しながら自分の意見を通す“柔らかい言い回し”を身につけることが大切です。
たとえば、「私はこう思います」は「我覺得〜」ですが、そのまま使うと強い主張に聞こえることがあります。
そこで
「我在想是不是〜(こうしたらどうかなと思うんですが)」
とワンクッション置くことで、“提案”に変わります。
また、否定するときも「不是這樣(違う)」ではなく、
- 「好像有一點不一樣(少し違うかも)」
や
- 「再想想看(もう少し考えてみよう)」
と言えば、対立にはなりません。
台湾では、“勝つ”より“和する”ことが評価される文化です。
意見の対立を「衝突」ではなく「調整」として処理できる人こそ、台湾で信頼される設計者・監督です。
台湾人が好む“前向きな言葉”とは
台湾の現場で最も避けたいのは、ネガティブな言葉を連発することです。
たとえ事実であっても、「難しい」「できない」「困った」は空気を重くします。
代わりに、台湾人が好むのは
- 「没問題(大丈夫)」
- 「可以(できます)」
- 「沒關係(問題ない)」
といった前向きな言葉です。
たとえば、施工が遅れていても「糟糕了(やばい)」とは言わず、
- 「我們加快一點(少しスピードを上げよう)」
と声をかける。
これだけで現場全体の士気が上がります。
また、台湾人は“ポジティブな反応”に敏感です。
- 「很好!(すごくいい!)」
- 「太漂亮了!(すごくきれい!)」
と褒めることを恥ずかしがらず、率直に口に出しましょう。
日本のように「良いけどもう少し…」と条件付きで言うよりも、まず“褒めてから伝える”方が、台湾では確実に伝わります。
「ありがとう」を増やすと、現場は動き出す
台湾の職人たちは、お金よりも「信頼されること」に喜びを感じる人が多いです。
だからこそ、日々の小さな作業に対しても感謝を言葉にすることが大切です。
- 「辛苦了!(お疲れさま)」
や
- 「謝謝你的幫忙!(手伝ってくれてありがとう)」
は、どんな立場でも必ず響くフレーズです。
筆者の経験では、どんな難しい現場でも「感謝」があるチームは最終的に必ずうまくいきます。
台湾の内装工事現場で働く人々は、プライドと温かさを持っています。
彼らにとって、「ありがとう」は単なる挨拶ではなく、信頼の証です。
感謝を口にするたびに、現場の空気が柔らかくなり、コミュニケーションの質が変わります。
「謝謝」を繰り返す人ほど、台湾では“人望のある監督”として知られていくのです。
台湾の現場では、強い言葉よりも“温かい言葉”が人を動かします。
- 怒るより笑う。
- 命じるより頼む。
- 叱るより褒める。
この3つの切り替えができるだけで、台湾の店舗設計・店舗内装・オフィス内装の現場は格段にスムーズになります。
信頼は言葉の技術から生まれるのではなく、言葉の温度から生まれるのです。
第5章 設計者・現場監督のための「現場中国語」ステップアップ術
台湾の内装設計や店舗工事の現場に何度も通ううちに多くの日本人が感じるのは、「少しは話せるようになったけど、まだ自信がない」というもどかしさです。
文法も発音も完璧ではなくても、台湾の職人たちはあなたが一言でも中国語を使おうとする姿勢を、心から喜びます。
重要なのは、“正確さ”よりも“誠実さ”です。
相手が「伝えようとしてくれた」と感じる瞬間に、言葉を超えた信頼が生まれます。
この章では、内装現場に関わる設計者・監督・オーナーが、実際に使える中国語を自分の武器にしていくためのステップアップ方法を紹介します。
単なる語学学習ではなく現場で活きる中国語をどう身につけるか──
その実践的なアプローチを解説します。
台湾人スタッフと一緒に覚える「一日一語」習慣
現場で働く台湾人スタッフは、あなたの最高の先生です。
彼らと一緒に「一日一語」を学ぶ習慣をつくることで、実践的な中国語が自然に身につきます。
たとえば、朝の打ち合わせで「今天要學哪一句?(今日はどんな言葉を覚える?)」と聞いてみる。
職人が「辛苦了(お疲れさま)」や「修一下(少し直す)」などを教えてくれたら、その日一日でできるだけ多く使ってみましょう。
この小さな繰り返しが、最も効果的な現場語学トレーニングです。
台湾人は教えることが大好きです。
「この言い方、合ってる?」と尋ねれば、笑顔で直してくれます。
完璧な中国語を目指すより、「一緒に学ぶ」姿勢を見せる方がずっと信頼されます。
そして次第に、現場全体が“学び合う空気”に変わっていきます。
翻訳アプリを“使いこなす”現場監督の知恵
最近は翻訳アプリが優秀になり、スマートフォン一つで現場の会話もスムーズにできます。
ただし、翻訳アプリに頼りすぎると、伝わるニュアンスが薄れてしまうことがあります。
ポイントは、「翻訳アプリ=確認ツール」として使うこと。
たとえば、「この言葉で通じているか?」を調べたり、職人が話した中国語の意味をすぐ確認したりする“橋渡し”として活用します。
筆者が現場で愛用しているのは、音声入力と写真翻訳機能です。
図面に手書きの中国語メモがある場合、カメラで読み取って即座に意味を確認できるのは非常に便利です。
さらに、「これはこう言いたい」という自分の言葉を入力して、中国語訳を職人に見せるだけでも通じます。
ただし、画面を見せるときは必ず笑顔で。
無言でスマホを差し出すと、冷たい印象を与えてしまいます。
翻訳アプリはあくまで“会話のきっかけ”です。
使い方次第で、心の距離を縮める最高のツールになります。
中国語を話す勇気を支える「現場メモ」の作り方
現場で中国語を話すとき、最初にぶつかる壁は“とっさに言葉が出てこない”ことです。
そんなときに役立つのが、自分専用の「現場メモ」です。
たとえば、
- 「平らにしてください」→「請弄平一點」
- 「ここを合わせてください」→「這裡要對齊」
- 「あとで確認します」→「等一下我再看」
といった“自分の現場で使う言葉”を、ノートやスマホにまとめておきます。
このメモを毎日見返すことで、記憶が定着します。
また、職人に見せながら「これで合ってる?」と確認するのも効果的です。
そのたびに自然な修正をもらえるので、教科書には載っていない“生きた中国語”が学べます。
そして重要なのは、「間違いを恐れない」ことです。
台湾の人たちは、外国人が頑張って話す姿勢に非常に寛容です。
正しいかどうかより、“伝えようとする努力”そのものが、信頼を築く最大の材料になります。
発音よりも“笑顔”が通じる台湾現場マインド
台湾の現場では、少々発音が違っても、笑顔と態度でほとんどのことが伝わります。
たとえば「辛苦了(シンクーラ)」の“ラ”がうまく言えなくても、笑顔で言えば職人たちはすぐに理解してくれます。
言葉の正確さよりも、相手の目を見て話すことが何より重要です。
台湾では「眼神交流(アイコンタクト)」が信頼の証とされています。
相手の目を見て、少しうなずきながら話すだけで、「この人は真剣だ」と伝わります。
また、笑顔で「我還在學中文(まだ中国語を勉強中です)」と言えば、
ほとんどの職人が「沒問題,我幫你!(大丈夫、手伝うよ!)」と返してくれます。
言葉を完璧にするより、笑顔を完璧にするほうが、台湾では確実に現場が動くのです。
言葉を超えて信頼を築く「共創コミュニケーション」
最終的に、現場中国語の目的は“語学力を上げること”ではありません。
日台で一緒に良い空間を作ることです。
つまり、言葉は「共創」のための道具にすぎません。
台湾の現場では、設計者が「一緒に考える」姿勢を見せることで、職人や施工会社が主体的に動いてくれるようになります。
- 「你覺得這樣好看嗎?(このデザイン、きれいだと思う?)」
- 「我們一起決定吧!(一緒に決めよう)」
こうした“共に考える”フレーズが、日台の心をつなぎます。
内装設計も施工も、最終的には「人の仕事」です。
その人間関係の中心にあるのが“言葉の信頼”です。
中国語が流暢でなくても、誠意のある言葉と態度があれば、台湾の現場では必ず伝わります。
そして、信頼が生まれた瞬間から、言葉の壁は消えていくのです。
中国語を学ぶことは、台湾の内装工事・店舗設計・店舗出店の現場で信頼を築くための最短ルートです。
しかし、そのゴールは「語学の達人」ではなく、「伝わる人」になること。
あなたの一言一言が、台湾人スタッフの心を動かし、日本と台湾の新しい“共創空間”をつくる力になります。
まとめ:言葉を超えて伝わる力──台湾の現場で築く、本当の信頼関係
台湾での内装設計や店舗工事に関わると、多くの日本人が最初に戸惑うのが「言葉の壁」です。
しかし、実際に現場で汗を流してみると、通じないのは“言葉”そのものではなく、その言葉の背景にある文化やニュアンスであることに気づきます。
第1章では、その最初の違和感──つまり「伝えたつもりが伝わっていない」原因を探りました。
台湾では、同じ言葉でもトーンや表情によって受け取り方が大きく変わります。
日本の「お願いします」や「大丈夫です」が、台湾では命令的に聞こえたり、曖昧に伝わったりすることがある。
そこには、台湾社会が大切にしている「人との距離感」や「面子を尊重する文化」が深く関わっています。
この違いを理解し、“言葉の温度”を調整することが、最初の一歩でした。
第2章では、現場で今日から使える実践的なフレーズを紹介しました。
「辛苦了(お疲れさま)」や「麻煩你(お願いします)」など、短い言葉であっても、声のトーンやタイミング次第で信頼の深さが変わります。
台湾の内装工事現場では、厳密な指示よりも“気持ちのこもった一言”が人を動かすのです。
図面に書かれた仕様を超えて、「言葉で仕上がりを作る」感覚が求められます。
第3章では、図面では伝わらない“現場のリアル”に踏み込みました。
台湾の職人たちは、図面を“参考”として見ます。
つまり、現場状況や経験をもとに自ら判断することが多いのです。
この柔軟性が台湾現場の強みである一方、日本人にとっては“勝手な変更”に見えることもあります。
しかし、彼らの意図を理解し、「なぜその仕様にしたいのか」を丁寧に説明すれば、現場の意識は一瞬で変わります。
「命令」ではなく「共有」で動かす──それが台湾での成功の鍵でした。
第4章では、人間関係の作り方を中心に取り上げました。
台湾の現場では、“怒り”より“笑顔”が圧倒的に強い。
人前で叱責すれば信頼を失い、笑顔で頼めば協力が生まれる。
その違いは、技術力でも語学力でもなく、「相手を尊重する力」です。
「辛苦了」「謝謝」「很好!」というポジティブな言葉を増やすだけで、現場の空気は一変します。
台湾では、感謝と笑顔が“最強のマネジメントスキル”なのです。
そして第5章では、言葉の壁を越えるためのステップアップ方法を解説しました。
中国語の勉強を机の上で続けるよりも、現場で一緒に覚える「一日一語」のほうが効果的です。
職人たちに教えてもらいながら、少しずつ自分の言葉を増やしていく。
翻訳アプリを補助に使い、現場メモで復習する。
こうした実践的な積み重ねこそ、真のコミュニケーションを生み出します。
そして何より大切なのは、発音よりも笑顔、文法よりも誠意。
「我還在學中文(まだ勉強中です)」と笑って言える人ほど、台湾では信頼されます。
台湾の現場で“伝わる人”になるということ
台湾の内装設計・店舗設計・店舗改装・オフィス内装の現場は、日本とは異なるダイナミズムがあります。
スピードが速く、柔軟で、そして人と人との距離が近い。
その中で求められるのは、“完璧な中国語を話す人”ではなく、“伝わる人”です。
- 「一緒にやろう」
- 「どう思う?」
- 「ありがとう」
この3つの言葉を自然に使えるだけで、現場の関係性は驚くほど良くなります。
それは、設計者と職人、監督とオーナー、国と国をつなぐ“架け橋”となる力です。
台湾で成功する日本企業や設計者は、例外なく「言葉でつながる力」を持っています。
通訳がいても、自分の口から「辛苦了」と言える人。
図面だけでなく、会話で現場をまとめる人。
そのような人が、台湾の現場で最も尊敬され、長く信頼される存在になるのです。
言葉はツール、信頼は文化
内装設計や店舗づくりは、単なる技術の集合ではありません。
人と人が言葉を交わし、理解を深め、ひとつの空間を“共に創る”行為です。
日本と台湾という異なる文化の中で、その橋渡し役を担うのが、あなたの「現場中国語」です。
言葉はツールであり、信頼は文化です。
この二つを丁寧に結びつけていくことが、国境を超えた空間づくりの本質です。
台湾の現場で交わす小さな一言が、日台両国の新しい未来を形づくっていく。
そう信じて、あなたの次の一言を大切にしてください。
「伝わる」ということは、「通じ合う」ということです。
それは、図面よりも深く、契約書よりも強い。
台湾の現場であなたが交わすひとつひとつの言葉が、現場の空気を変え、職人たちの心を動かし、空間の質を高めていきます。
台湾で働くすべての日本人設計者・監督・オーナーへ。
完璧な中国語は必要ありません。
誠実な一言、笑顔の挨拶、そして“共に創る”姿勢こそが、最高の「現場中国語」なのです。


