台湾での店舗出店や内装設計プロジェクトでは、言葉の壁以上に“文化の壁”が結果を左右します。
日本の設計者が描いた理想の空間も、現場での理解がずれればまったく違う形になることも。
そこで求められるのが、「設計者と現場監督の間に立つ翻訳者のような存在」です。
この“翻訳者”とは、通訳のことではなく、文化・感情・仕事観を橋渡しする人。
第1章 「伝える」と「伝わる」は別の話 ― 台湾現場で起きる誤解の正体
日本企業が台湾で店舗を出店し、内装設計や内装工事を進める際、最初に直面する壁は「言葉の壁」ではありません。
本当の課題は、「伝えたつもり」が「伝わっていない」という認識のズレにあります。
日本の設計者が図面に込めた意図も、台湾の現場では「細かすぎる指示」と受け取られることが少なくありません。
また、台湾人の現場監督が発する「沒問題(問題ない)」という言葉も、日本側が想定する“完了”の意味とは違うことがよくあります。
つまり、「伝える」と「伝わる」の間には、文化、時間、仕事観といった見えない翻訳の壁が存在するのです。
ここでは、その誤解の構造を紐解き、どうすれば“伝わる設計・伝わる現場”を実現できるのかを考えます。
「はい、わかりました」は理解の証ではない
台湾の現場で最も多い誤解が、「相手がうなずいた=理解した」と思ってしまうことです。
日本では「はい、わかりました」と言うと、ほとんどの場合“完全に理解している”ことを意味します。
しかし台湾では、相手に敬意を示すために肯定するという文化的背景が強く、「はい」と言われても、実際には「聞きました」「了解しましたが、まだ判断していません」という意味を含むことが多いのです。
特に現場の職人は細かい日本式の指示に戸惑うこともあり、「わからない」と言うよりも、とりあえず“好(ハオ)”と返す傾向があります。
そのため、日本側が安心して帰ったあと、まったく違う形で施工が進むというケースも少なくありません。
本当に理解されているかを確かめるには、「どのように作業する予定ですか?」と相手の言葉で説明させることが効果的です。
“質問型確認”こそが、台湾現場における最も確実な理解確認の手法なのです。
図面と現場の温度差:日本の精度、台湾のスピード
日本の内装設計・施工現場は、図面が命です。
施工図の1mmのズレさえ許されず、仕上がりの精度を極限まで追求します。
一方、台湾では図面はあくまで「参考資料」であり、現場で調整する前提で動いています。
この違いが、日本側の設計者を悩ませます。
たとえば、「カウンターの高さを図面どおり850mmに」と指示しても、台湾の職人は「この床材だともう少し上げたほうが使いやすい」と判断し、現場で微調整してしまう。
彼らにとっては、それが“より良い仕上げ”なのです。
つまり、台湾の現場には現場判断を尊重する文化があり、日本的な「図面絶対主義」は通用しません。
このギャップを埋めるためには、設計段階で「どこが絶対で、どこが柔軟なのか」を明確に共有しておくことが欠かせません。
「口約束」で進む文化をどう受け止めるか
台湾の工事現場では、「契約」「議事録」「承認印」よりも口頭の合意が重視される場面が多々あります。
たとえば、現場で「この壁は白じゃなくてベージュにします」とオーナーが言えば、それが正式な変更指示として通ってしまう。
日本では必ず書面で承認を取り、設計変更届を交わすのが常識ですが、台湾ではスピード重視の文化が根付いています。
それを「ルーズ」と捉えるのではなく、即断即決のフットワークとして理解することが大切です。
ただし、そのままでは日本側の責任範囲が曖昧になり、トラブルの元にもなります。
対策としては、LINEやWeChatなどのチャットで「この内容で進めていいですか?」と一言残すこと。
スクリーンショットを保存しておくだけでも、“口約束の記録化”につながります。
信頼関係を保ちながら、最小限の証拠を残す工夫が重要です。
“完璧主義”と“臨機応変主義”のぶつかり合い
日本の現場では、「予定通り」「図面通り」「仕様通り」が正義です。
一方、台湾では「結果的に良ければいい」「やってみて考える」という発想が主流です。
この違いは、単なる性格差ではなく、社会構造の違いに根ざしています。
台湾では多くの職人が独立自営で動いており、自分の判断で現場を調整する自由度が高い。
それに対して日本では、企業内での上下関係や責任分担が明確で、判断よりも遵守が求められます。
そのため、日本人設計者が「なぜ勝手に変えたのか」と怒り、台湾側が「良くするために変えたのに」と反論する構図が生まれます。
この衝突を避けるには、“完璧”を共有せず、“目的”を共有することです。
「このデザインの狙いは空間を広く見せること」と伝えれば、台湾側はその目的に沿って臨機応変に対応してくれます。
台湾現場で誤解を減らす“可視化”の工夫
誤解を最小限にするために有効なのが、視覚的な伝達手段の活用です。
台湾では、言語よりもイメージで理解する傾向が強いため、口頭説明よりも「写真・スケッチ・サンプル」が効果的です。
たとえば、「もう少し柔らかい照明に」と伝えるより、参考写真を見せるほうが早い。
また、現場打ち合わせの際には、「この部分をこう変える」という修正箇所をその場で赤入れして写真を共有する習慣をつけると、伝達ミスが激減します。
さらに、台湾の職人は実際の素材や質感に強い関心を持つため、モックアップを一部だけでも見せると、理解が飛躍的に深まります。
“図面文化”に慣れた日本人設計者にとっては手間に感じるかもしれませんが、視覚で伝える努力が信頼を生むのです。
このように、「伝える」と「伝わる」の間には、言葉を超えた“文化の翻訳”が必要です。
台湾の内装設計・内装工事の現場では、相手の理解の仕方そのものが異なることを前提に動く。
それを理解したうえで、伝達方法をデザインする力が、日本企業の台湾出店成功を左右する鍵となります。
第2章 通訳ではなく“翻訳”をする力 ― 現場で生きるコミュニケーション術
台湾での店舗設計や内装工事において、最も重要なのは「設計意図を正確に伝えること」だと思われがちです。
しかし、実際の現場では、設計者の“正確な言葉”よりも、それを“現場が理解できる形に変換する力”が問われます。
つまり、必要なのは「通訳」ではなく「翻訳」。
通訳が言葉をそのまま置き換える作業であるのに対し、翻訳は“背景の意味”を読み解き、相手の文化や思考様式に合わせて再構成することです。
台湾の現場でスムーズにコミュニケーションをとるためには、この“翻訳的思考”が不可欠です。
ここでは、日台の現場で生きるコミュニケーション術を、5つの観点から具体的に掘り下げます。
設計図の「なぜ」を説明できる人になる
台湾の施工現場で「図面どおりにやってください」と指示しても、その意図が理解されなければ、結果は期待どおりにはなりません。
たとえば「この壁を白に」と言っても、職人は「なぜ白なのか?」を知らないため、汚れが目立ちにくいクリーム色にしてしまうこともあります。
そこで重要なのが、“なぜそうするのか”を説明できる力です。
「この白は、空間を広く見せるため」「光を反射させて明るくするため」と理由を添えると、現場は自分の判断基準を持って動けるようになります。
つまり、図面の指示を目的に翻訳することが、日台プロジェクトの精度を高める第一歩なのです。
台湾の職人は決していい加減ではありません。目的が共有されていないだけなのです。
「OK」が3種類ある?台湾現場の独特な返事文化
台湾の現場では「OK」「沒問題」「好(ハオ)」という言葉が頻繁に飛び交います。
しかし、その意味は日本語の「了解」とは異なります。
例えば「OK」は、「理解した」よりも「あなたの言いたいことはわかった(でもやるかは別)」というニュアンス。
「沒問題」は、「できるかどうかはこれから考えるけれど、今は問題にしたくない」という穏便な返事。
そして「好」は、「その場の雰囲気に合わせた同意」の場合が多く、本当の意味での“承諾”とは限りません。
この違いを理解せずに日本側が「OKと言ったのに!」と憤っても、現場では「いや、まだ確認してない」と返されるのがオチです。
そこで有効なのは、確認時に「では、誰がいつやりますか?」と実行レベルの質問を重ねること。
この一言が、“曖昧なOK”を“実行可能な了解”に変えるのです。
「仕様変更」を伝える最適タイミングとは
台湾の内装工事現場では、急な変更が頻繁に発生します。
日本のように「正式に承認が下りてから現場に指示」という流れでは間に合わないこともあります。
重要なのは、変更内容を伝えるタイミングです。
日本式では「詳細が決まってから伝える」のが常識ですが、台湾では「方向性の段階で先に共有する」ほうが混乱を防ぎます。
なぜなら、現場がその情報をもとに他の工程を調整するためです。
たとえば「照明器具を変えるかもしれない」という段階でも、「まだ確定ではないが、検討中」と伝えるだけで、職人たちは仮の準備を進めます。
つまり、曖昧な段階でも情報をシェアする“透明性”が、台湾現場では信頼につながるのです。
変更を恐れず、変化を前提とした情報共有を意識しましょう。
通訳を介すよりも早い“ダブルチェック法”
日本企業が台湾でプロジェクトを進める際、しばしば通訳を介して指示を出します。
しかし、通訳者の言葉を通すと、どうしてもニュアンスが削がれたり、現場感が薄れたりすることがあります。
特に内装工事では、「素材」「色」「仕上げ」といった微妙な表現が結果を左右します。
そのため、通訳任せにせず翻訳の結果を自分の目で確かめる“ダブルチェック法”を実践することが重要です。
具体的には、通訳が伝えたあとに「今の説明でどんな内容でしたか?」と相手に要約させること。
このプロセスを通じて、言葉のズレをその場で修正できます。
また、チャットツールでのやり取りを通訳者と共有し、記録を可視化しておくことも有効です。
翻訳は一方通行ではなく、双方向の理解を作るためのツールなのです。
言葉の翻訳+感情の翻訳で信頼をつくる
台湾の現場では、「技術力」以上に「人間関係」が仕事の質を決めます。
つまり、相手の感情を読み取り、それを信頼に翻訳する力が求められるのです。
たとえば、台湾人の職人が無言になると、日本人は「怒っているのか」と思いがちですが、実際は「考えている」「恥をかきたくない」という心理で沈黙している場合が多い。
そんなときに「大丈夫ですか?何か必要ですか?」と穏やかに声をかけるだけで、心の距離が一気に縮まります。
また、台湾では「ありがとう」よりも「麻煩你(手間かけてごめんね)」という言葉が人間関係を円滑にします。
相手の努力を前提に感謝するこの言い回しを使うだけで、現場の空気が柔らかくなるのです。
言葉と感情を同時に翻訳できる人こそ、現場から最も信頼される存在になります。
台湾での店舗設計・店舗内装・店舗出店の現場では、通訳のように単に言葉を伝えるだけではなく、設計意図、文化、感情を“翻訳”する力が求められます。
その力が、台湾の室内設計会社や内装工事会社と長期的な信頼関係を築く基礎となります。
第3章 文化を翻訳する ― 台湾と日本の“現場観”の違いを理解する
日本の店舗設計・内装工事の現場では、「計画を立てて、段取りを固めてから動く」という考え方が根底にあります。
一方、台湾の現場では「まずやってみる」「現場で調整すればいい」という文化が強く、スピード感を重視します。
この違いは単なる仕事の仕方の違いではなく、文化の背景に根ざした“現場観の差”です。
つまり、台湾の現場を理解するには、技術的な知識よりも、文化的な理解が欠かせません。
日本の「段取り八分」と台湾の「現場八分」
日本の内装工事文化には「段取り八分、仕事二分」という言葉があります。
これは、事前の準備と計画を徹底することで、現場の混乱を防ぐという思想です。
図面、工程表、施工手順、材料手配──すべてが事前に整っていることが日本の品質を支えています。
対して台湾では、「現場で決める」ことが文化として根付いています。
計画よりも、実際の現場での状況判断を重視し、材料や寸法の微調整は職人がその場で決めるのが一般的です。
日本側から見ると「準備不足」に見えますが、台湾人にとっては「柔軟で効率的な対応」です。
このギャップを翻訳するには、まず「違いを正す」のではなく「違いを前提に設計する」ことが必要です。
たとえば、図面上で“調整可能部分”を明記しておくと、台湾の現場の判断力を活かしながら、日本的品質も守ることができます。
会議で決めても現場で変わる ── その理由
台湾では、会議や打ち合わせで決定した内容が、翌日には現場で変わっていることがあります。
これは「約束を破った」のではなく、「より良いと思えば変えていい」という文化的思考が働いているためです。
日本では決定事項を変更することに大きな責任が伴いますが、台湾では「現場でより良い方法を見つけたら、それを採用するのがプロ」という価値観があります。
つまり、「現場の判断=改善」と考えられているのです。
この文化のもとでは、上からの指示よりも、現場の裁量を信頼することがスムーズな進行の鍵になります。
日本側が「なぜ変えたのか」を問い詰めるより、「どんな理由でそう判断したのか?」と聞くことで、対話が生まれます。
台湾の職人たちは、自分の判断を尊重されると責任感を発揮し、結果的に品質も向上します。
指示を出すより「相談する」スタンスが有効
日本の設計者は、プロジェクトを「指示」する立場に慣れています。
一方、台湾では、指示よりも相談や提案の形でコミュニケーションを取る方がスムーズに進みます。
たとえば、「この素材を使ってください」と命令的に言うより、「この素材だとこういう仕上がりになりますが、どう思いますか?」と尋ねるだけで、現場の反応がまったく変わります。
台湾の現場文化では、“話し合いながら決めること”が信頼の証なのです。
それは上下関係よりも“対話”を重視する社会構造に由来しています。
つまり、台湾の現場では「命令」よりも「共感」が人を動かします。
日本人設計者がこの文化を理解して「一緒に考える」姿勢を見せると、職人たちも誇りを持って作業に臨むようになります。
最終的に、より良い空間が生まれるのは、こうした共創のコミュニケーションがある現場です。
“顔を立てる”ことが現場を動かす最大の鍵
台湾社会では「面子(ミェンツ)」=“顔を立てること”が非常に重要です。
人前で叱責したり、間違いを直接指摘したりすると、相手の尊厳を傷つけることになります。
日本の現場監督が「ここ間違ってますよ」と善意で言ったとしても、台湾では“恥をかかされた”と受け取られ、関係が悪化することもあります。
そこで有効なのが、人前で批判せず、個別に感謝を添えて伝える方法です。
「昨日の施工、とても丁寧でした。ひとつだけ確認したいことがあるのですが…」と前置きするだけで、相手は心を開きます。
また、台湾では「頼る」「お願いする」ことが関係を深める行為とされるため、「これ、あなたにしかできない」と一言添えることで、職人のモチベーションがぐっと上がります。
つまり、技術指導よりも、相手の自尊心を翻訳して扱う力が、現場の生産性を左右するのです。
翻訳者の本質は「文化のバランス感覚」にある
日台の店舗設計・内装工事の現場を成功に導く翻訳者の本質は、単に言語を操ることではなく、文化の重心を調整することにあります。
日本的な計画性と台湾的な柔軟性、どちらかに偏ってもプロジェクトはうまくいきません。
翻訳者的存在は、両者の間で「どこまでが日本的厳密さを守るべき部分で、どこからが台湾的即応力を活かす部分なのか」を見極める必要があります。
たとえば、仕上げ精度や安全基準など“譲れない品質”は日本式で統制し、一方で材料調達や納期調整など“現場判断が活きる領域”では台湾流に任せる。
そのバランス感覚こそが、日台協業の最大の強みを引き出します。
言い換えれば、文化を翻訳する人は、同時に調和をデザインする人なのです。
日本の「制度化された品質」と、台湾の「人間関係で築く品質」。
どちらが優れているのかではなく、価値の方向性が違うだけです。
台湾で信頼される設計者・監督になるためには、相手の文化を理解し、それを自分の言葉で翻訳しながら現場に反映させる姿勢が不可欠です。
文化を翻訳できる人こそ、台湾の室内設計や店舗内装の現場で本当の意味で信頼される橋渡
第4章 信頼を翻訳する ― チームの中で「潤滑油」として機能する
台湾での店舗出店や内装工事の現場では、設計者、監督、職人、オーナーが同時に意見を交わす“多層的な現場”が日常です。
そこには、言語だけでなく、立場や目的、価値観の違いが複雑に絡み合っています。
そんな環境の中で最も必要とされるのが、「信頼を翻訳する人」です。
つまり、誰か一人の味方になるのではなく、全員の考えを理解し、それぞれの立場をつなぐ潤滑油のような存在。
現場が信頼する「間に立つ人」の共通点
台湾の現場で最も頼りにされるのは、「どちらの立場にも偏らない人」です。
設計者でもなく、監督でもなく、その中間に立って双方の言葉を理解し、行動に変換できる人が、現場の信頼を集めます。
彼らに共通するのは、「決めつけない」「先入観を持たない」「両方の言い分を聞く」という姿勢です。
台湾の工事現場では、設計図通りに進まないことがしばしばあります。
そんなとき、設計者が「図面通りに戻せ」と言い、職人が「現場では無理だ」と反発する。
このとき、真の信頼者はどちらの味方でもなく、「どうすれば両方の意図を保ったまま進められるか」を探る人です。
現場は、意見を押し通す人ではなく、対話を続けてくれる人に信頼を寄せます。
信頼を翻訳するとは、単に「伝える」ことではなく、「互いの信念を尊重する場を整える」ことなのです。
指摘ではなく“提案”で動かす現場心理
台湾の現場では、指摘や批判が信頼を壊す原因になることがあります。
日本では「ここが違う」と率直に伝えることが誠実さの表現ですが、台湾では“相手の顔を立てること”が重要です。
つまり、「指摘」よりも「提案」の形で伝えるのが効果的です。
たとえば、「ここ、もう少し仕上げを丁寧にしてもらえますか?」よりも、「この部分、少し磨きを入れるとさらに良くなりますね」と伝える方が、受け入れられやすい。
同じ内容でも、言い方ひとつで相手のモチベーションは大きく変わります。
信頼を翻訳する人は、相手のプライドを守りながら成果を引き出す技術を持っています。
この「提案型コミュニケーション」は、台湾の現場で特に効果を発揮します。
職人たちは「信頼されている」と感じた瞬間に、技術と熱意の両方で応えてくれるのです。
チャット・LINE・口頭──最適な伝達手段を選ぶ
台湾の現場では、コミュニケーション手段の使い分けも非常に重要です。
日本ではメールや書面が主流ですが、台湾ではLINEやWeChatなどのリアルタイムメッセージが中心。
そのスピード感がプロジェクトの進行を大きく左右します。
ただし、すべてをチャットで済ませると情報が散逸し、トラブルの原因にもなります。
重要なのは、「何をどの手段で伝えるか」を明確に決めておくことです。
たとえば、
- 細かい現場調整 → LINEで即共有
- 仕様変更やコスト確認 → 書面またはPDFで正式記録
- イメージ共有 → 写真・動画で送付
このように整理するだけで、情報伝達の精度とスピードの両立が可能になりますさらに、チャット上でやり取りした内容は定期的にスクリーンショットで保存し、ミーティングで再確認することが信頼構築の基本です。
台湾の現場では「早く返す人」が信頼されます。
レスポンスの速さこそ、信頼の言語なのです。
「現場を信じる姿勢」が信頼を生む理由
日本の設計者や監督が台湾で誤解されがちなのが、「管理が厳しすぎる」という印象です。
日本では品質を守るために詳細なチェックを重ねますが、台湾ではそれが「疑われている」と感じられることもあります。
信頼を得るためには、現場を信じる姿勢を見せることが大切です。
たとえば、「この部分は任せます」「あなたの経験で判断していいですよ」と一言添えるだけで、現場の空気は一変します。
もちろん、完全に任せるのではなく、事後の確認を丁寧に行う。
“管理”ではなく“信頼の伴走”という意識で接すると、台湾のスタッフは自ら品質を上げようと努力してくれます。
台湾の現場における信頼は、命令ではなく「任せた」という一言から始まるのです。
翻訳者的存在が持つべき“聴く力”とは
信頼を翻訳する人に欠かせないのが、“聴く力”です。
ここで言う「聴く」とは、単に相手の話を聞くことではなく、その背景にある感情や意図を読み取ること。
台湾の職人が「この方法は難しい」と言うとき、それは「できない」という意味ではなく、「リスクがある」「もっと良い方法があるかもしれない」というサインのことが多いのです。
このサインを見逃さず、「どうすればやりやすくなりますか?」と問い返すことで、建設的な会話が生まれます。
また、台湾では沈黙が必ずしも否定ではありません。
即答を避けることで相手の意見を尊重している場合もあります。
つまり、“聴く力”とは、相手の沈黙の意味を理解し、行動に反映させる力でもあるのです。
この力を磨けば、言葉以上に深い信頼関係が築けます。
台湾の店舗内装・店舗設計・内装工事の現場では、信頼は「結果」ではなく「関係性の積み重ね」によって生まれます。
その関係をつなぎ、調整し、深めていく存在こそ、真の意味での“信頼の翻訳者”です。
その人がいることで、設計者も職人も安心して力を発揮できる。
それが、台湾現場における最大の強みとなります。
第5章 翻訳者から“共創者”へ ― 台湾店舗づくりの未来像
台湾の内装設計・内装工事の現場で、日本企業が成功するかどうかは、「どれだけ管理できたか」ではなく、「どれだけ共に創れたか」で決まります。
これまでの章で見てきたように、台湾の店舗設計・店舗出店では、文化や価値観の違いを翻訳できる力が不可欠でした。
しかし、真のゴールはその先にあります。
それは、翻訳者から“共創者”へと進化することです。
設計者・監督・職人・オーナー、それぞれの立場を超えて、一つのビジョンを共有し、チーム全体で空間を育てていく。
翻訳者は“調整役”ではなく“共創パートナー”へ
日本企業が台湾でプロジェクトを進める際、通訳者やコーディネーターの役割を「間に立つ人」として捉えがちです。
しかし、本来の理想形は「間に立つ」のではなく、「共に立つ」こと。
つまり、設計と現場の双方に関わりながら、一緒に考え、提案し、判断するパートナーであることが重要です。
たとえば、日本側の設計者が「図面どおり」を求める一方で、台湾の現場が「現実的な施工方法」を提案してきたとき、翻訳者的存在はその中間点を探すだけでなく、「新しい方法を一緒に生み出す」役割を担います。
それは単なる妥協ではなく、文化の融合による最適解です。
台湾現場では、「共に考える姿勢」こそが最大の敬意の表現。
その積み重ねが、“調整役”から“共創パートナー”への進化を促すのです。
台湾設計会社の強みを引き出すコミュニケーション
多くの日本企業が見落としがちなのは、台湾の設計会社が持つ柔軟性と創造性の高さです。
台湾の設計者たちは、スピードと独自の感性で、短期間に空間を形にしていく力を持っています。
しかし、日本側が細かい指示を出しすぎると、その創造力が封じられてしまうこともあります。
「この素材を使ってほしい」「この色にしてほしい」と限定するより、「この空間でどんな印象を与えたいか」を共有する方が、より良い結果につながります。
たとえば、「落ち着き」と「開放感」をテーマに伝えれば、台湾側の設計者は文化的な感覚でその“空気”を形にしてくれます。
台湾の強みは“直感的に空間を読む力”です。
その力を引き出すためには、命令ではなく対話、仕様書ではなく感覚の共有が必要なのです。
「日本品質」を押しつけないデザインアプローチ
日本企業が台湾出店で陥りがちな失敗の一つが、「日本品質の再現」にこだわりすぎることです。
もちろん品質は重要ですが、台湾の市場や顧客の感覚は日本と異なります。
たとえば、日本ではミリ単位の精度で仕上げることが美徳ですが、台湾では「心地よい不均一さ」や「手仕事の温度感」に価値を見出します。
この感覚の違いを尊重しなければ、デザインは“現地に馴染まない空間”になってしまいます。
したがって、日本的な完璧主義を押しつけるのではなく、台湾の文化の中で日本品質を再構築することが必要です。
具体的には、「耐久性」「清潔感」「機能性」などの根本原則は維持しつつ、素材の選択や光の使い方、色のトーンなどは現地の美意識に合わせて変える。
それが、台湾市場に愛される“共創デザイン”です。
台湾人スタッフと“成果を共有”する文化づくり
台湾では、プロジェクトの達成を「チーム全員の成果」として祝う文化があります。
一方で、日本の企業体質は「責任分担」「個別評価」が強く、現場の温度感が分断されがちです。
台湾の現場で本当の信頼関係を築くには、成果を共有する文化を意識することが大切です。
たとえば、店舗オープン時に「このデザインはあなたのおかげです」と一言添えるだけで、職人やスタッフは誇りを感じます。
また、施工完了後にスタッフ全員で記念撮影を行い、SNSで紹介するのも台湾では喜ばれる慣習です。
こうした“小さな称賛”が、次のプロジェクトへの原動力となります。
台湾の職人は、自分の仕事が評価され、感謝されると、驚くほどの熱量で応えてくれます。
信頼を超えて、誇りを共有する関係。
それが共創の出発点です。
日台コラボがもたらす新しい店舗デザインの形
翻訳者が共創者へと成長することで、日台の店舗づくりは新しいフェーズに入ります。
それは、「日本的精度」と「台湾的感性」が融合した、新しい空間の創造です。
たとえば、照明計画において、日本の光環境設計の技術と、台湾の色彩感覚を掛け合わせることで、機能的でありながら温かみのある“アジアモダン”な空間が生まれます。
また、素材選定でも、台湾特有の湿度や気候に合わせたローカルマテリアルを使い、日本式ディテールで仕上げることで、持続性と地域性を両立したデザインが可能になります。
共創とは、単なる協力ではなく、“違い”を価値に変えること。
日台両国が互いの得意分野を尊重し合うことで、アジアの中でも独自のデザイン文化が形成されていくでしょう。
その中心にいるのが、文化を翻訳し、信頼をつなぎ、未来を共に描く“共創者”なのです。
台湾の店舗設計・内装工事の現場は、単なる受発注の関係から、パートナーとしての共創関係へと進化する時代を迎えています。
日本側が“翻訳者の視点”を越え、“共に創る姿勢”を持つことで、台湾現場との信頼は深まり、双方のブランド価値が高まります。
そして何より、その空間に訪れるお客様が、「日本らしさ」と「台湾らしさ」の両方を感じ取れる店づくりが実現します。
それこそが、日台協業による新しいインテリアデザインの未来なのです。
まとめ|設計と現場の間に立つ「翻訳者」が台湾プロジェクトの未来を変える
台湾の店舗設計や内装工事の現場において、最も難しいのは「図面を描くこと」でも「施工を管理すること」でもありません。
本当に難しいのは、設計者の思いを現場に伝え、現場の意見を設計に戻すことです。
そして、その橋渡しを担う存在こそが、本記事で繰り返し述べてきた「翻訳者」のような人です。
日本と台湾の現場は、同じ言葉を使っても、意味が違うことが多々あります。
「はい」「OK」「沒問題」という一言の裏には、それぞれ異なる文化や背景が潜んでいます。
だからこそ、単に通訳を介するだけでは、プロジェクトはうまく回りません。
本当に必要なのは、“言葉の翻訳”ではなく、“文化・感情・価値観の翻訳”です。
「伝える」から「伝わる」へ
第1章で触れたように、日本的な論理や図面主義は台湾では必ずしも通用しません。
台湾の現場では、図面は「目安」、現場判断は「正解」の一つです。
だからこそ、「なぜそうするのか」を丁寧に伝える努力が求められます。
理解を強要するのではなく、理解を引き出す。
それが、「伝える」から「伝わる」へと変化する最初のステップでした。
「通訳」から「翻訳」へ
第2章では、単に言葉を置き換えるのではなく、意図や背景を“翻訳”することの大切さを学びました。
「仕様変更」の連絡一つでも、タイミングや伝え方次第で信頼関係が変わります。
台湾の現場においては、曖昧さを避けるよりも、先に情報を共有する透明性が大切です。
言葉を正しく伝えることよりも、行動を導く言葉を選ぶこと。
それが、現場を動かす翻訳者の力です。
「文化を理解する」という最大の翻訳
第3章では、日台の“現場観”の違いを掘り下げました。
日本の「段取り八分」に対し、台湾の「現場八分」。
会議で決めても現場で変わる柔軟さ。
そこにはルーズさではなく、「最適を求める文化」があります。
その違いを“正す”のではなく“活かす”。
文化を理解することは、相手を尊重すること。
それが翻訳者としての第一歩であり、日台信頼の基盤です。
「信頼を翻訳する」ことの意味
第4章では、信頼を築くために必要な姿勢を整理しました。
信頼は、契約や肩書きで得るものではなく、日々のコミュニケーションの積み重ねで生まれます。
台湾の職人たちは、指示よりも“提案”で動きます。
叱責ではなく称賛、命令ではなく相談。
そして、何より「任せる」という言葉に深く反応します。
翻訳者的存在とは、相手の自尊心を傷つけずに結果を導く人。
つまり、信頼をデザインする人なのです。
「翻訳者」から「共創者」へ
最終章で述べたように、理想は翻訳で終わらず、共創へと発展させることです。
日本の設計思想と台湾の感性が融合するとき、そこにはこれまでにない空間が生まれます。
日本の「精度」と台湾の「直感」、日本の「管理」と台湾の「即応力」。
それぞれの強みを認め合い、補い合うことで、アジアならではのデザイン価値が創出されます。
その中心で舵を取るのが、翻訳者から共創者へと成長した存在です。
もはや“間に立つ人”ではなく、“一緒に立つ人”。
それが、これからの日台プロジェクトにおける理想の姿でしょう。
日本企業が台湾現場と真に信頼を築くために
台湾の内装設計・内装工事・店舗出店・室内設計の現場は、今まさに変革の時代を迎えています。
価格競争ではなく、信頼競争の時代です。
「日本品質を守る」だけではなく、「台湾現場の力を信じる」姿勢が、これからの鍵となります。
そのためには、設計者や監督が“翻訳者の意識”を持ち、文化を超えて共に考えること。
そして、台湾の設計会社や施工会社を“パートナー”として尊重することです。
信頼とは、与えるものではなく、共に積み上げるもの。
その積み重ねの先に、日台協業の真の価値があります。
おわりに
「設計者と現場監督の間に立つ翻訳者のような存在になる」――。
それは、単に両者をつなぐ役割ではありません。
“言葉”を超え、“文化”を超え、“立場”を超えて、人と人をつなぐ役割です。
台湾で成功している日本企業の多くには、この翻訳者的存在がいます。
彼らがいることで、設計が生き、現場が輝き、オーナーが満足する。
それは偶然ではなく、信頼を丁寧に翻訳し続けた結果です。
これから台湾で店舗を出店しようとしている皆さまへ。
「伝える」ではなく「伝わる」関係を築きましょう。
「管理する」ではなく「共に創る」姿勢を持ちましょう。
その先にあるのは、図面の正確さを超えた、人の温度を感じる店舗空間です。
そしてその空間こそが、日台の信頼の象徴となるのです。


