台湾で店舗を出店しようとすると、言語・文化・商習慣の違いが想像以上に壁となります。
特に「設計会社や内装工事会社との信頼関係づくり」は、日本の常識が通じにくい領域です。
図面より大切なのは「心の通い方」。
台湾出店を成功させたい企業にとって、現場で役立つ「信頼構築の教科書」になれば幸いです。
第1章 信頼の出発点は「初対面の温度」から始まる
日本の設計・施工の現場では、最初の打ち合わせは「業務開始の儀式」に近い意味を持っています。
名刺交換をして、挨拶を交わし、資料を提示し、要件を整理する。
形式的ではありますが、秩序正しく、互いの役割を明確にして進むのが日本流です。
一方、台湾の設計会社や内装工事会社と初めて顔を合わせる場面では、こうした“形式”よりも“空気感”が重視されます。
言葉にしなくても伝わる「温度」が、信頼関係の始まりを左右するのです。
特に日本企業が台湾に出店する際、最初の面談での印象がその後の数か月、あるいは数年のプロジェクトの雰囲気を決めることも少なくありません。
台湾では、最初に「この人となら気持ちよく仕事ができそう」と思ってもらえるかどうかが、見積もりやスケジュール以上に重要です。
「自己紹介」で信頼が決まる:名刺交換より“笑顔の温度”
日本では名刺の差し出し方や順番など、ビジネスマナーを重視しますが、台湾ではそれよりも“人間的な親しみやすさ”が先に立ちます。
例えば、日本人がきちんとした姿勢で名刺を渡し、「本日はどうぞよろしくお願いいたします」と言っても、台湾側の担当者はまだ「どんな人か分からない」という印象を持っていることが多いのです。
そのため、最初の瞬間に必要なのは「完璧な敬語」ではなく、「感じのよい笑顔」と「誠実な雰囲気」。
台湾の人々は、相手の目を見て笑顔で挨拶することをとても大切にします。
短い一言でも、少しリラックスしたトーンで「台湾で仕事ができるのを楽しみにしていました」と伝えると、それだけで場の空気が和らぎます。
この“笑顔の温度”が、台湾における信頼構築のスタートラインです。
名刺よりも、名刺を渡すその瞬間の目線と表情が、相手の記憶に残るのです。
台湾流の“雑談の中に商談あり”を理解する
日本の商談では「雑談は時間の無駄」と考える人もいますが、台湾ではむしろ雑談こそが商談の中心にあります。
たとえば「この近くで美味しい牛肉麺の店がありますよ」といった何気ない話題をきっかけに、相手の性格や価値観、コミュニケーションのテンポが自然に伝わるのです。
台湾の設計士や現場監督は、形式的な自己紹介よりも「共感」を重視します。
特に日本企業が相手の場合、「台湾の文化を知ろうとしてくれている」と感じることで、一気に心を開いてくれます。
ですから、初対面ではぜひ少しだけプライベートな話題、例えば「台湾のデザインで好きな建築」や「最近注目している店舗」などを混ぜることをおすすめします。
このとき大切なのは、ビジネスの外側にある“人と人の会話”を楽しむ姿勢です。
台湾の設計会社は、あなたが何を言ったかよりも、どんな空気で話しているかを敏感に感じ取っています。
日本的な“準備完璧”が時に壁になる理由
多くの日本企業は、初回打ち合わせの前に詳細な資料、パース、スケジュール表などを揃え、完璧な準備をして臨みます。
しかし、台湾の現場では、それが必ずしも「信頼」に結びつかないことがあります。
なぜなら、台湾の設計会社や工事会社は「まず動いてみてから考える」文化が根づいているからです。
過度に完璧を求める態度は、相手に“柔軟性がない”“融通が利かない”という印象を与えかねません。
もちろん、資料を用意すること自体は悪いことではありません。
むしろ必要です。
ただし、それを“決定事項”として提示するのではなく、「この方向性でご意見を聞かせてください」という“スタートライン”として共有することが重要です。
台湾の現場では、相手の意見を尊重しながら進める姿勢が信頼を深めます。
日本式の「準備万端」を台湾流の「柔軟さ」と融合させることで、初回面談からチームとしての一体感が生まれます。
通訳越しでも伝わる「人間味」の出し方
日本企業が台湾に出店する際、多くの場合、通訳を介して設計会社や工事会社とやり取りを行います。
しかし、通訳を介すとどうしても「距離感」が生まれがちです。
このとき重要なのは、通訳を“情報の橋”ではなく、“感情の橋”として活かすことです。
たとえば、相手が何かを提案してくれたとき、すぐに返答をする前に、相手の目を見て「謝謝、很棒的想法!(ありがとう、いいアイデアですね)」と一言添えるだけで、場の雰囲気は大きく変わります。
通訳の言葉ではなく、あなた自身の声や表情が、台湾側に安心感を与えるのです。
また、話の途中で通訳が詰まった場合も、焦らず微笑んで「大丈夫ですよ」と伝えることで、相手に“この人は優しい”という印象を残せます。
台湾では、言葉よりも“態度の温かさ”が記憶に残ります。
通訳を介しても、あなたの誠意は必ず伝わります。
初回打ち合わせ後の“24時間以内フォロー”が信頼をつくる
台湾のビジネス文化において、「レスポンスの速さ」は信頼の象徴です。
初回の打ち合わせ後、24時間以内に感謝のメッセージや議事録を送るだけで、あなたの印象は確実に変わります。
「本日は素敵な打ち合わせをありがとうございました。台湾の皆さんと一緒に良い空間をつくれることを楽しみにしています。」
この一文に、相手は“誠実な日本企業だ”と感じます。
メールでもLINEでも構いません。
早い返信が「信頼を重んじている証」として受け取られます。
逆に、数日経っても何の反応もない場合、台湾側は「関心が薄いのか」「仕事を軽視しているのか」と感じてしまうことがあります。
特に台湾の設計会社は複数案件を同時に抱えているため、レスポンスの早いクライアントを優先しがちです。
初回打ち合わせのフォローこそが、次の提案スピード、見積対応の熱量を左右するのです。
第2章 図面よりも「約束」が信頼を生む:日台で異なる仕事観
日本では、設計図面こそが「約束のすべて」と考えられています。
図面どおりに仕上げることが品質保証であり、信頼の証です。
しかし台湾の現場では、図面は“完成形”ではなく“出発点”。
プロジェクトの進行中に変更や追加が生じるのは自然なことと受け止められています。
つまり、日本の「図面通りこそ正義」という文化と、台湾の「柔軟さこそ信頼」という文化の間には、見えないギャップが存在します。
図面は“絶対”ではない?台湾現場の柔軟性
台湾の内装現場では、「図面通りに進めること」よりも「現場でより良い結果を出すこと」を優先します。
日本では、図面は“法令・安全・品質”の全てを担保する最終書類であり、変更には慎重さが求められます。
しかし、台湾では「現場で思いついた改善点をすぐ取り入れる」ことが、むしろプロの証とされます。
たとえば、施工中に照明配置を微調整したり、壁面素材を別のものに変えることも珍しくありません。
それを「勝手な変更」と捉えるのではなく、「現場での最適化」として肯定的に受け止めるのが台湾の文化です。
日本の発注者にとっては不安に感じる部分もありますが、これは「いい加減」ではなく「臨機応変」。
この違いを理解することが、最初の信頼のステップです。
台湾の現場では、「図面以上の提案」を歓迎する姿勢が根づいているのです。
“変更”はトラブルではなく「成長の余地」
日本では図面変更は「トラブルの兆候」と見なされがちですが、台湾では“変更=進化”です。
工事中に設計士や現場監督が「もう少しこうした方がいい」と提案するのは、クオリティを上げたいという前向きな意思表示なのです。
特に台湾の職人は、自らの経験から「この材料は湿気に弱い」「この角度の方が空間が広く見える」といった実践的な知恵を持っています。
それを活かすために、施工途中で細部を変えることがあります。
このとき、日本側が「図面通りにやってください」と強く指示してしまうと、相手は“信頼されていない”と感じてしまいます。
変更を提案されたときは、まず「その理由」を聞くことが大切です。
彼らの提案には、現場を知る者ならではの“リアルな根拠”が隠れています。
それを理解し、柔軟に対応することで、互いの信頼が一段深まります。
約束を守る=時間を守るだけではない
日本では「時間を守る=信頼を守る」と考える人が多いですが、台湾では少し違います。
もちろん時間厳守は大切ですが、それ以上に大事なのは「約束の意図を誠実に守ること」です。
たとえば、納期が多少遅れても、進捗状況を誠実に報告し、代替案を提案してくれる設計会社は高く評価されます。
一方、表面上は期限を守っても、仕上がりや対応が雑であれば、信頼は一瞬で崩れます。
台湾のクライアントや協力会社は、「誠意を見せてくれたかどうか」で人を判断します。
ですから、もしスケジュールや仕様に変更が必要な場合は、早めに正直に伝えることが信頼を保つ鍵です。
「ご迷惑をおかけしますが、最善を尽くします」と誠実に言葉を添えれば、台湾ではそれが“責任感のある対応”と受け止められます。
つまり、台湾における「約束」とは、紙に書かれた条件ではなく、信頼のやり取りそのものなのです。
「言った」「言わない」を防ぐ日台の報連相術
日台のプロジェクトでは、口頭でのやり取りが思わぬ誤解を生むことがあります。
台湾では、会議での決定事項や要望が必ずしも文書で残るとは限りません。
「先週こう話したはず」「そう思っていた」というすれ違いが、トラブルの火種になることもあります。
これを防ぐには、日本式の“報連相”をそのまま持ち込むのではなく、台湾流にアレンジすることが効果的です。
たとえば、打ち合わせ後に「本日の内容を簡単にまとめました」としてLINEやメールで共有すると、非常に喜ばれます。
長文の議事録ではなく、要点を3〜5項目でまとめた“軽いメッセージ”が理想的です。
これにより、言った・言わないの誤解を防ぐだけでなく、「丁寧な日本企業」という印象も強まります。
台湾では、“伝える力”よりも“確認する姿勢”の方が信頼を得やすいのです。
図面以上に大切な“心の確認作業”とは
図面を共有したあと、日本側は「これで理解してもらえた」と安心しがちですが、台湾の現場では“紙の理解”と“心の理解”は別です。
台湾人スタッフは、相手を尊重する文化が強く、たとえ理解していなくても「OK、沒問題(問題ありません)」と返すことがあります。
しかしそのまま進めてしまうと、仕上がりのイメージがズレることも少なくありません。
このとき重要なのは、“相手の目の表情”を観察することです。
もし少しでも迷いが見えたら、図面の角度を変えたり3Dパースを見せながら再確認する。
あるいは「念のためもう一度確認しますね」と日本語で言ってから、簡単な中国語で「我們再確認一次(もう一度確認しましょう)」と笑顔で添える。
その一手間が、信頼を深めます。
図面という“モノの確認”の前に、相手の気持ちを“ヒトとして確認”する。
それが、台湾で信頼される日本企業の共通点です。
第3章 お金の話こそ信頼の試金石
多くの日本企業は、台湾で店舗出店や内装設計を進める際、「お金の話はできるだけ後回しにしたい」と考えがちです。
日本の商習慣では、信頼がある程度できてから価格交渉を行うことが“礼儀”とされているためです。
しかし、台湾ではその逆。価格や支払い条件を早い段階で率直に話し合うことが「誠実さ」として受け止められます。
むしろお金の話を避けると、「本音を隠しているのでは?」と不信感を持たれることもあるのです。
「安くしてほしい」より「なぜこの価格か」を聞く
台湾の設計会社や内装工事会社に見積もりを依頼すると、まず日本側が驚くのはその「価格のばらつき」です。
同じ条件で3社に見積もりを出しても、金額が2倍以上違うことは珍しくありません。
ここで日本企業がやりがちなミスは、「一番安い会社を選ぶ」か「一律に値下げ交渉をする」ことです。
台湾では、価格が安い=信頼できるとは限りません。
むしろ「なぜ安いのか」を明確に説明できない会社は敬遠されます。
逆に、「なぜこの価格になるのか」を丁寧に説明できる会社は、たとえ高くても誠実だと評価されます。
「安くしてほしい」という一言は、相手の努力を軽視する言葉として伝わることもあります。
一方、「この部分のコスト構成を教えてもらえますか?」と尋ねる姿勢は、相手に“理解しようとしている誠実なパートナー”という印象を与えます。
台湾では、値段よりも“理解し合う努力”が信頼の基礎なのです。
相見積もりの伝え方で信頼が決まる
複数の会社に相見積もりを依頼することは、台湾でも一般的です。
しかし、その伝え方次第で相手の印象は大きく変わります。
日本のように「他社にも見積もりをお願いしています」と淡々と伝えると、台湾側は“価格競争に巻き込まれている”と感じ、やる気を失うことがあります。
代わりに、「御社のアイデアや品質の考え方を比較したい」と言えば、相手は“自分たちの技術を正当に評価してくれる”と感じます。
さらに、見積依頼時に「最終的には価格だけでなく、品質や対応力も含めて判断します」と一言添えるだけで、関係はより健全になります。
台湾では、“フェアであること”が何より重要です。
たとえ選ばれなかったとしても、「きちんと説明してくれた会社」として、次のプロジェクトで声がかかることも多いのです。
相見積もりの伝え方一つが、今後の信頼関係を左右することを忘れてはいけません。
支払いタイミングの文化差を理解する
支払いスケジュールも、日台で大きく異なります。
日本では「着手金・中間金・最終金」という明確な3段階払いが一般的ですが、台湾ではプロジェクトの進行状況に応じて柔軟に支払いが行われます。
特に台湾では、「進捗に応じた小刻みな支払い」や「追加費用の都度清算」が好まれる傾向にあります。
これを日本側が「管理が煩雑だ」と感じることもありますが、台湾では「信頼の証」として受け止められています。
つまり、支払いを小刻みに行うことで、「相手の努力を随時評価している」というメッセージになるのです。
また、台湾では支払いの遅延が非常に敏感な問題です。数日遅れただけでも「信用に問題がある」と受け取られることがあります。
日本の感覚で「締め日にまとめて支払う」といった一括精算方式を押し通すよりも、現地の習慣に合わせて柔軟に支払いを調整する方が、信頼構築には効果的です。
見積書に現れる“誠実な会社”の特徴
台湾の見積書を見比べてみると、数字の正確さやフォーマットの美しさよりも、“説明の丁寧さ”がその会社の誠実さを表します。
たとえば、「電気工事一式 NT$120,000」とだけ書かれている見積書よりも、「照明配線・スイッチ・コンセント・分電盤含む」と細かく明記してある見積書の方が信頼できます。
また、材料名や仕様の説明に「推奨理由」や「代替案」が書かれている場合も要注意ではなく、むしろ“プロ意識の高さ”の表れです。
台湾の設計会社や施工会社は、細部まで書かずとも暗黙の了解で進める文化があり、最初から完璧な見積書を期待するのは難しい面もあります。
だからこそ、誠実な会社は質問をすればすぐに修正版を出してくれる。そのスピードと対応力こそ、信頼できるパートナーのサインです。
見積書は単なる金額表ではなく、“相手の誠意が見える鏡”だと考えるべきです。
価格交渉のあとこそ、信頼が深まる瞬間
台湾では、価格交渉を行ったあとに“関係が冷える”ことはありません。
むしろ、交渉を通してお互いの立場や事情を理解し合えたときに、初めて本当の信頼が生まれます。
日本では「値下げ交渉は関係を壊すリスクがある」と思われがちですが、台湾では“真剣に向き合ってくれている”証拠として受け止められます。
重要なのは、交渉の内容ではなく、交渉の姿勢です。
「この予算内で最大限良い空間をつくりたい」と伝えれば、台湾の設計会社や工事会社は本気で工夫をしてくれます。
交渉後に「今回はご協力いただきありがとうございます。今後もぜひ長くお付き合いしたいです」と一言添えることで、相手は“この取引は単発ではない”と感じ、関係をより大切にしてくれるでしょう。
台湾では、取引より“人付き合い”のほうが重んじられます。お金の話を通してこそ、本当の信頼が育つのです。
第4章 「共創」という信頼の形:台湾現場での協働力
信頼とは、一方的に築かれるものではありません。
特に台湾の店舗設計や内装工事の現場では、「一緒に汗をかく」ことこそが最大の信頼構築です。
日本では、発注者・設計者・施工者の役割が明確に分かれ、指示命令の流れが直線的に整理されています。
しかし台湾では、その線があいまいでありながらも、現場全体が“ひとつのチーム”として動く文化があります。
つまり、台湾の現場では「管理」より「協働」、「指示」より「共創」。
“任せる”より“巻き込む”が台湾流
日本人はよく、「現場のことは専門家に任せよう」と考えます。
しかし、台湾では“任せる”より“巻き込む”姿勢が大切です。
台湾の職人や設計士は、クライアントと一緒に考え、一緒に悩み、一緒に喜びたいと感じています。
「この部分はこうしてもいい?」と相談すれば、相手は一気に距離を縮め、モチベーションを高めます。
一方で、すべてを任せっぱなしにしてしまうと、「どうせ口を出さない人」と思われ、細かい部分での配慮が薄れてしまうこともあります。
共創とは、“信頼して任せる”ことと“自ら関わる”ことの絶妙なバランス。
打ち合わせの段階から「一緒につくっていきたい」という姿勢を示すだけで、台湾の設計会社の対応は劇的に変わります。
彼らは「関与してくれる人」に対して、より真剣に、より熱心に取り組む文化を持っているのです。
設計意図を共有するより「背景」を語る
日本の発注者は、図面や仕様書を通じて「設計意図」を丁寧に説明します。
しかし台湾の設計士や職人にとって、それだけでは心に響きません。
彼らが本当に知りたいのは、「なぜそのデザインを選んだのか」「どんな客層を想定しているのか」といった“背景”です。
たとえば、「この壁を白にしたい」と指示するよりも、「この店は女性が落ち着いてお茶を飲める空間にしたい」と伝える方が、相手は納得して動いてくれます。
台湾では、感情やストーリーの共有が非常に重視されます。
つまり、“デザインの理由”を共有することで、相手は自分の役割を理解し、プロとしての誇りを持って施工に臨むのです。
図面を見せるだけでなく、その図面の“物語”を語ること。
それが、台湾現場における「共創の第一歩」です。
職人との距離を縮める一言の魔法
台湾の内装現場では、職人たちとの関係性が仕上がりを大きく左右します。
日本の現場では、監督や設計士が職人に直接話しかけることは少ないですが、台湾ではむしろ積極的に声をかけることが歓迎されます。
現場に行ったとき、「今天辛苦了!(今日もお疲れさま)」と声をかけるだけで、相手の表情が一瞬で変わります。
言葉が完璧でなくても、気持ちは確実に伝わります。
台湾の職人たちは、自分たちの仕事が尊重されていると感じると、驚くほど熱心に動いてくれるのです。
また、昼食や休憩時間に一言雑談を交わすことで、現場全体が和み、意思疎通もスムーズになります。
台湾では“人間関係の温度”が工事品質を変える。
信頼される発注者・設計者とは、技術よりもまず「人として近づく勇気」を持った人です。
問題発生時こそ“信頼の真価”が問われる
どんなに準備を整えても、現場では必ず問題が起こります。
材料の納期が遅れる、図面と実際の寸法が違う、工事音にクレームが入る──こうしたトラブルのときこそ、真の信頼関係が試される瞬間です。
日本人の悪い癖は、問題が起きたときに「なぜこうなったのか」を先に問い詰めることです。
しかし台湾の現場では、まず「どうすれば解決できるか」を一緒に考える姿勢が求められます。
責任を追及するよりも、共に解決策を探ることが“誠意”として伝わります。
「じゃあ、明日一緒に確認しましょう」と言えるだけで、相手の態度は変わります。
台湾では、トラブル対応の早さよりも“態度の柔らかさ”が信頼の指標です。
困難なときほど、“共に動く姿勢”が相手の心に残るのです。
「一緒に悩む」ことが最高の現場マネジメント
日本のマネジメントは「指示の明確さ」で成り立っていますが、台湾では「共感の深さ」で現場が動きます。
たとえば、職人が難しい部分の納まりで悩んでいるときに、ただ「図面通りにやってください」と言うのではなく、「ここ、どうしたら一番きれいに見えると思う?」と尋ねてみる。
その一言で、職人は“自分の意見が尊重されている”と感じ、仕事の質が変わります。
共に悩み、考える時間は、決して非効率ではありません。
台湾の現場では、そのプロセスこそが“信頼の積み重ね”として評価されるのです。
そして、そうして生まれた提案には、現場の経験と誇りが宿っています。
共創とは、命令ではなく、共に考え、共に歩むこと。
それが台湾現場で最も大切なマネジメントの哲学です。
台湾の店舗内装や設計の現場では、「共創=信頼」です。
日本のように明確な線引きをするのではなく、互いの領域を少しずつ重ねながら“より良い結果”を目指すことが当たり前になっています。
任せるだけではなく、関わり、語り、悩む。
その一つひとつの行動が、図面以上の信頼を生み出します。
つまり台湾では、現場に立ち会う時間そのものが「信頼の言語」なのです。
まとめ|信頼は「契約」ではなく「心の温度」で育つ
台湾での店舗出店や内装設計、内装工事のプロジェクトを成功させる最大の鍵は、技術でも資金でもなく「信頼関係」です。
その核心をあらためて整理し、台湾で長く愛される企業になるための要点を振り返ります。
信頼の出発点は「初対面の温度」から始まる
信頼は、最初の5分で決まります。
名刺交換の形式よりも、笑顔・声のトーン・雑談の柔らかさ。台湾では、相手の「人間味」を感じられる瞬間に心が開かれます。
そして、打ち合わせ後の“24時間以内フォロー”は、誠意を示す最高のサインです。
「この人となら一緒にやっていける」と思ってもらうことが、すべてのスタートラインになります。
図面よりも「約束」が信頼を生む
台湾の設計会社や施工会社にとって、図面は“決定事項”ではなく“協議の土台”。
日本の「図面どおりに正確に進める」という文化と、台湾の「現場でより良くしていく」という文化は対照的です。
つまり、図面以上に重要なのは「お互いの理解」です。
報連相の徹底よりも、“確認の一言”と“柔軟な姿勢”こそが信頼を深めます。
図面を守ることよりも、相手の誠意を守ること。
それが台湾で評価される“約束”の本質です。
お金の話こそ信頼の試金石
お金の話を避けるのは、日本では礼儀ですが、台湾では誤解を生みます。
価格交渉や支払い条件の話を率直に行うことで、相手は「誠実でオープンな企業」と感じます。
特に見積書の内容や支払いスケジュールを丁寧に確認し合うことは、信頼の可視化そのもの。
交渉の結果よりも、交渉の姿勢が相手の心を動かします。
お金のやり取りは、“信頼を測るレンズ”であり、誠実な対応こそが次の仕事を呼び込むのです。
「共創」という信頼の形
台湾の現場では、発注者・設計者・職人の垣根が低く、全員が“同じチーム”として動きます。
信頼される日本企業とは、管理する側ではなく、“共に悩み、共に動くパートナー”として振る舞う企業です。
図面の説明だけでなく、その背後にあるストーリーや理念を語ること。
職人への一言の声かけ、問題発生時の一緒になった行動が、台湾現場の信頼を決定づけます。
「一緒につくる」姿勢が、台湾の“共創文化”の中で最も尊ばれる信頼のかたちなのです。
信頼とは、文化を超えて「想いを伝える技術」
台湾の設計会社・内装工事会社との関係を築く上で、最も大切なのは「完璧さ」ではなく「誠実さ」です。
ミスや誤解があっても、誠意を持って向き合えば、台湾の人々はそれを理解し、むしろ信頼を深めてくれます。
なぜなら、台湾のビジネスは“数字の取引”ではなく、“人のつながり”を基盤にしているからです。
日本企業が台湾において成功する条件とは、現地の価値観を尊重し、相手の温度に寄り添いながら、誠実に仕事を積み重ねていくこと。
その積み重ねの先に、単なる発注者・受注者の関係を超えた、“共に未来をつくる仲間”としての絆が生まれます。
最後に
台湾での店舗づくりは、設計でも施工でもなく、「信頼づくり」そのものが本業です。
笑顔から始まり、言葉を超えてつながり、やがて共に未来を描く。
この連続こそが、台湾のデザイン文化の真髄であり、日本の企業が学ぶべき最大の財産です。
信頼は、紙の上で交わす契約書ではなく、心の温度で交わす約束。
それを理解した企業だけが、台湾という舞台で、真に美しい空間と人間関係を築いていけるのです。


